はじめまして

4月 01日, 2014年
カテゴリー : プロデューサー目線 

4月1日に渡邊守章先生の後任として舞台芸術研究センタ-所長に就任しました。センタ-には、この4カ月ほど、主任研究員としてかかわってきましたので、右も左も分からないという状態ではありませんが、しかし新米であることに変わりはありません。このコ-ナ-では、プロデュ-サ-(制作責任者)としての立場から、春秋座とstudio21で催される公演等の紹介をしてゆくことになりますが、それは次回からにして、第1回の今回は、まずは自己紹介からはじめます。
私が専門としている能楽-能と狂言のことです-は、世間では、どうも演劇とは思われていないようです。それは能楽界も同様で、演者や研究者で、能楽が演劇だと意識している人はごく少数です。戦後の一時期には、「能は演劇か否か」という、思えば不思議なことが話題にもなりました。そんなことが話題になるのは、「能は演劇とは異なる何かである」という抜きがたい理解が一般的だったからで、その状況は残念ながら現在も変わっていません。そもそも、能や狂言が海外の「演劇」祭に参加し、文化庁の芸術祭の「演劇」部門に能や狂言が参加していることだけでも、答えは自明のはずです。個人的な例をあげるなら、私は現在、日本「演劇」学会の会長であり、4年前まで四半世紀近く勤務していたのは大阪大学の「演劇」学研究室でした。つまり、「能は演劇か否か」という設問自体が問題なわけで、演劇との関係を問題にするのなら、「能(あるいは狂言)はいかなる演劇なのか」ということでなくてはならないと思うのです。
能あるいは狂言はいかなる演劇なのか。それは、同じ伝統演劇である歌舞伎や人形浄瑠璃(文楽)がいかなる演劇なのか、いわゆる西洋近代劇はいかなる演劇なのか、アングラ劇を通過してきた現代劇はいかなる演劇なのか、また、ダンスや舞踊などの舞台芸術としての質を問うのと同じことです。それはおのずから、それらの「質」の違いという問題にもつながります。「能はいかなる演劇か」を考えることは、多彩な領域からなる舞台芸術を理解するについても有効なのです。
専門が能楽研究だと言うと、そのような環境で育ったと思われることもあるようですが、能の舞台にはじめて接したのは、何をやってもうまくゆかず、一念発起して国学院の文学部に学士編入で入学して、中世の日本文学を勉強するうち、能という世界があることを知りつつあった二十代も終わり頃のことです。能を面白いと思い、さらに感動するようになるのは、それからかなり後になります。私の研究上の恩人で、戦後の能楽研究を牽引した故表章先生は、学生時代にたまたま通りかかった神田の共立講堂ではじめて能を見たがまったく理解できず、それが能の研究に入るきっかけだったと、よく言われていました。能に感動して研究を志したのではなく、異物としての能に研究意欲をそそられたわけですが、私の場合もそれに近いところがあります。
私に与えられた仕事は、多岐にわたる舞台芸術のプロデュ-スですが、私の場合、いかなる分野であれ、たぶん無意識のうちに、「演劇としての能や狂言」の「質」と比較しつつ進めることになりそうです。

天野文雄
(舞台芸術研究センタ-所長)

ありがとうございました。

3月 01日, 2014年
カテゴリー : プロデューサー目線 

私事ですが、今月いっぱいで10年間お世話になった京都造形芸術大学との契約が満了となります。2000年~2004年、2008年~2014年の2期に分かれますが、最初の4年間は春秋座立ち上げの1年前から、軌道に乗るまででした。後期は舞台芸術研究センターが充実してきた6年間で、とにかくワクワクする10年間でした。
この間、理事長、専務をはじめ各部署のご協力をいただき気持ちよく仕事が出来ましたことに感謝しております。現場のスタッフ、また学生さんとの交流も年齢を忘れて楽しませていただきました。それに何よりもうれしいことは、一時期120名に減っていた友の会会員の皆様が2月中に900人を越えたことです。担当者の奮闘の甲斐もありますが、春秋座とそのプログラムが認知されてきた証拠といえましょう。春秋座にお出かけいただいたお客様、本当にありがとうございました。
春秋座は、これからが正念場です。フレッシュなスタッフが一丸となって、「京都に春秋座あり」と言うステータスを確立していって欲しいと思います。
大学を退任という区切りをつけるとともに、春秋座につきましては顧問プロデューサーという立場で、何本かの演目を引き続き制作させていただくことになりました。常に大学に居る事はなくても、春秋座とのご縁は大切にして行きたいと思っています。
今年は、「立川志の輔独演会」(5月31日)とオペラ「椿姫」(12月20,21日)を担当させていただきますが、どちらも間違いなくご満足いただけるものと確信しております

はじめの内は、任期満了を迎えたら東京に戻る積りでおりましたが、今やすっかり京都が気に入ってしまい、京都を離れることが考えられなくなってしまいました。
微力ではありますが年配の方たちが安心して楽しんでいただける企画を個人的にも、春秋座のためにも考えて行く積りです。私の夢は「達人の館」の実現です。
どうぞ変わらぬお引き立ての程よろしくお願い申し上げます。

橘 市郎
(舞台芸術研究センター プロデューサー)

新緑の季節に向けて

2月 01日, 2014年
カテゴリー : プロデューサー目線 

春秋座では、新緑の季節に向けて、今月下旬から来月中旬にかけて5月公演の発売が始まります。
5月は魅力満載のラインナップで、まず10~11日は「伝統芸能の今2014」24日は「加藤登紀子春秋座コンサート」31日は「立川志の輔独演会」と目白押し。
「伝統芸能の今2014」は、今月3日に開催する「市川猿之助 特別舞踊会」に続く当春秋座芸術監督プログラムの第二弾。出演の市川猿之助をはじめ、上妻宏光、茂山逸平、亀井広忠、田中傳次郎らが一堂に会し、歌舞伎俳優×三味線プレイヤー×能楽師狂言方×能楽師・歌舞伎囃子方というコラボレーションがどんな化学反応を起こすか。チラシのキャッチコピーではないけれど“今この時しか出会えない、ジャンルを越えた融合”と興味津々の内容です。
続いて春秋座初登場の加藤登紀子さん。祇園甲部歌舞練場で行われている暮れの風物詩“ほろ酔いコンサート”は昨年で32回を数えます。小屋の雰囲気と振る舞い酒が相まって一種お祭的ムードの“ほろ酔い”とは対照的に、春秋座ではあるテーマを掘り下げたドラマチックなコンサートをお届けします。彼女の音楽の原点であるシャンソンに焦点を当てて、長年暖めてきたエディット・ピアフと親友マレーネ・デートリヒを繋ぐストーリーを、この度、登紀子さんが春秋座のために構成してくれました。そもそもこのテーマとの巡り合わせは、運命的というか宿命のようなものを感じさせられます。なんと登紀子さんはデートリヒと同じ誕生日で、戦後の混乱を生き抜いた登紀子さんの母はピアフと同年の生まれなのです。
そして、月末は恒例「立川志の輔独演会」の開催です。毎年満員盛況の志の輔さんは今年で6年目を迎えます。昨年は9月に開催し、「高瀬舟」という味わい深い人情話で落語通を唸らせました。今回も期待を裏切らない選りすぐりの演目をもって、思う存分江戸落語を堪能させてくれること間違いなしです。
風薫る皐月に繰り広げられる春秋座の公演をどうぞお楽しみに。

舘野 佳嗣
(舞台芸術研究センター プロデューサー)

新年に臨んで

1月 01日, 2014年
カテゴリー : プロデューサー目線 

明けましておめでとうございます。
お蔭様で、京都芸術劇場(春秋座・studio21)も、昨年は、文部科学省・文化庁から、「大学における劇場」としての認知を得、それぞれの助成金を交付されることとなりました。文科省の「舞台芸術作品の創造・受容のための領域横断的・実践的研究拠点」を掲げる「共同利用・共同研究」の助成金は、他の研究組織の方々を公募して、複合的な研究体制を作るもので、今年度は本学の研究者を中心に行っていますが、来年度にむけての公募を始めているところです。そのコンセプトは、劇場という「実験装置」を活用して、「実験工房」を立ち上げていくことで、今年度は、テーマ研究Ⅰ「近代日本語における〈声〉と〈語り〉」テーマ研究Ⅱ「舞台芸術における音/リズム/ドラマトゥルギーをめぐるジャンル横断的研究」テーマ研究Ⅲ「〈マルチメディアシアターの再定義〉をめぐる実践的研究」テーマ研究Ⅳ「現代の舞台芸術における照明技法ならびに照明美学の問題」の4課題を立てて企画が進行中です。
このうちテーマ研究Ⅰは、芥川賞受賞者で詩人の、元東京大学大学院教授松浦寿輝氏を企画立案ならびにメイン講師に、センター所長の渡邊が企画立案・モデレーターとして協力して、すでに能狂言における「語り」に始まって、明治から大正へと、近代日本語の文学言語が、どのように多様な変遷をたどったか、そのドラマを見ています。次回1月16日(木)は、漱石を取り上げ、まさに日本の文化と社会と言語の「近代化」の最中で苦闘した偉大な作家の「言語的冒険」の一端を偲びます。テーマ研究Ⅲは、ダムタイプの映像作家高谷史郎氏のハイテク映像によって過去三年間に春秋座で行った『マラルメ・プロジェクト』の実践的反省を出発点として、渡邊の構想を素材に、新たなマルチメディア・パフォーマンスの可能性を、春秋座の舞台を使って行っています。テーマ研究Ⅳは、本学准教授でもある照明プランナー岩村原太をモデレーターに、現在、日本の舞台照明家として最も旺盛な活動をしている服部基氏をゲスト研究者に招いて、舞台照明家から映像作家にいたる多彩な参加者とともに、服部氏の照明プランナーとしての仕事の、最も具体的な局面まで迫る討議を行っています。詳細は、ホームページをご覧ください。
文化庁の助成金は、二本ありますが、その一本について書いておきます。「大学を活用した総合的な舞台芸術アートマネージメント人材養成事業」で、これは「Ⅰ.レクチャー・プログラム」「Ⅱ.実践プログラム」ならびに「Ⅲ.編集プログラム」の三つの柱から成り立っています。目下は、ⅠとⅡが走っていますが、座学的な部分は、本学教官が、それぞれの専門を中心に語り〈たとえば、浅田彰教授の「ダンスの創造性」〉、実学的な局面は、実際に劇場運営に携わっている専門家(ロームシアター京都支配人兼エグゼクティブプロデューサーの蔭山陽太氏、京都国際舞台芸術祭プログラム・ディレクター兼事務局長の橋本祐介氏)をお招きして連続講義をしていただいています。日程等の詳しい情報は、ホームページをご覧ください。
さて、京都芸術劇場の公演事業としては、二月二日(日)春秋座におきまして、恒例の「春秋座 能と狂言」を催します。今回は、初めて能狂言を観る方にも分かりやすい演目をと考え、能は『船弁慶』〈シテ観世銕之丞、アイ野村万作〉、狂言は『棒縛り』(野村萬斎他)で、囃子方は、いつものように笛:藤田六郎兵衛、小鼓:大倉源次郎、大鼓:亀井広忠、笛:前川光範の皆さんです。
また、三月末には、マルチメディア・パフォーマンスと能狂言の実験的共同作業があります。詳細は次回のプログに書きますが、ご期待ください。
渡邊守章
(舞台芸術研究センター所長・演出家)

「猿之助への軌跡展」を春秋座で行う意義

12月 01日, 2013年
カテゴリー : プロデューサー目線, 過去の公演 

初めまして。舞台芸術研究センターの舘野と申します。長年にわたり、春秋座の公演プログラムに携わってまいりました橘より引き継ぎ、社会普及系の公演、並びに芸術監督関連の公演プロデュースを担当することになりました。今後も劇場をより活性化させ、皆様から愛されるような公演制作に励み、引いては春秋座が京都文芸復興の拠点となりますよう努めてまいります。
さて、12月の春秋座は、四代目市川猿之助襲名と春秋座芸術監督就任記念を記念し、「猿之助への軌跡展」を5日から開催します。今年5月に芸術監督就任しました市川猿之助は、ただ今、京都南座で吉例顔見世興行に奮闘出演中です。大都市における猿之助襲名披露公演は、東京の演舞場を皮切りに大阪・松竹座、名古屋・御園座、福岡・博多座と回り、そして、いよいよ最終地、暮れの京都にやってきました。
この襲名披露公演に合わせて、各地で「猿之助への軌跡展」と銘打ち、亀治郎時代から猿之助までの足跡を追った展覧会を開催しています。思い出の名舞台を迫力ある大型写真パネルでお見せし、豪華な舞台衣裳や45分間のドキュメンタリーフィルム「KABUKU」の上映など盛りだくさんの内容です。各地ではデパートの催事場で行われていましたが、京都は、この時期歳末シーズンと重なり開催が危ぶまれました。そこで、やはり猿之助にとって芸術監督でもあり、言わばホームグラウンドでもある我が劇場で行うのがふさわしいと判断し、開催の実現にこぎつけました。
2001年、当時亀治郎を名乗っていた猿之助は、春秋座の杮落とし公演から出演し、「春秋三番叟」を元気一杯に披露しました。翌2002年には、記念すべき「第1回亀治郎の会」の旗揚げを行い、以来計5回も上演しています。まさに自身の研鑽の場として春秋座は馴染みの深い劇場なので、この展覧会を春秋座で開くことは大変意義のあることなのです。展示物も他では見られない独自の特設コーナーを設け、「亀治郎の会」の思い出の舞台写真や特別編集の映像もご覧いただけます。それとドキュメンタリーフィルム「KABUKU」は他所と比べ、劇場内の大きなスクリーンで観賞できるのも大きな魅力の一つです。
暮れの風物詩京都南座の顔見世と合わせて、春秋座の「猿之助への軌跡展」へもどうぞ足をお運び下さいますようお願い申し上げます。

舘野 佳嗣
(舞台芸術研究センター プロデューサー)

プログラム・ディレクター橋本裕介さん

10月 30日, 2013年
カテゴリー : プロデューサー目線, 過去の公演 

毎月1日恒例の「プロデューサー目線」。
今回は初めて舞台芸術研究センター以外の方からのコメントをお送りします。
9月28日(土)から開幕しました KYOTO EXPERIMENT 2013より、プログラム・ディレクターの橋本裕介さんです。
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京都芸術劇場ブログをご覧の皆さま、はじめまして。
KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭のプログラム・ディレクターを務める橋本裕介です。
KYOTO EXPERIMENTは、2010年に始まった、京都国際舞台芸術祭実行委員会が主催する、京都初の国際舞台芸術祭です。この実行委員会には、京都造形芸術大学舞台芸術研究センターも参画し、会場として春秋座を提供してもらうだけでなく、様々な形でバックアップして頂いています。
今年も9月28日から10月27日の約1ヶ月間、春秋座を含む市内さまざまな会場で、国内外から先鋭的な作品が一同に集います。

この実行委員会に舞台芸術研究センターが参画しているのは、非常に自然な成り行きだったと記憶しています。KYOTO EXPERIMENTが立ち上がる6年前、京都芸術センターでは、「演劇計画」という演劇事業が行われていました。企画ブレーンとして、森山直人主任研究員が企画の立案に携わって来られました。さらにこの事業の一部として行われていた「京都芸術センター舞台芸術賞」という若手演出家のためのコンクールに際しては、研究センター代表代行の太田省吾さんが審査員を務めておられました。逆に京都の舞台人である松田正隆さんが、主任研究員に着任されるなど、2000年代の京都はそれぞれの立場を越えて人材が交流し、活況を呈していたと言えるでしょう。KYOTO EXPERIMENTはその延長上にあると言って間違いありません。

新しい表現を追求する熱意にあふれた当時の様子に、学生の頃から触れていた若手舞台人の一人、木ノ下裕一さん率いる「木ノ下歌舞伎」が、遂にKYOTO EXPERIMENTの公式プログラムに参加します。しかもそれが春秋座の舞台に登場するということで、感慨深く思うのは決して私だけではないはずです。古典芸能への関心を広げつつ現代の舞台芸術を学んだ木ノ下さんは、古典演目上演の演出や監修を自らが行う木ノ下歌舞伎を2006年に旗揚げ。そんな木ノ下歌舞伎は、2012年に『義経千本桜』の通し上演を成功させるなど、意欲的な活動を展開し、いまや全国にその名が知れ渡るようになりました。KYOTO EXPERIMENTでは、京都を代表する若手カンパニーの一つとして、今後も継続した形で、木ノ下歌舞伎と仕事をしていこうと考えました。そこで、初年度となる今年は、メンバーの皆さんと相談して「木ノ下歌舞伎ってどんなアプローチで古典の現代化に取り組んでいるの?」ということにフォーカスを当てた作品を発表してもらうことになりました。それが今回の『木ノ下歌舞伎ミュージアム “SAMBASO” ~バババッとわかる三番叟~』です。「三番叟」の歴史をたどる関連展示、狂言師・茂山童司さんの舞も組み合わせるという、劇場全体を使ったツアー形式で体感できる特別な企画。
能狂言から歌舞伎へと受け継がれ、発展してきた『三番叟』の歴史と、舞台芸術研究センターが育んできた京都の舞台芸術シーン、2つの意味で歴史を体験する絶好の機会となるはずです。

そして今年の春秋座で行われるプログラムで見逃せないのが、10月25日(金)、26日(土)にわたって上演される、パリを拠点に世界で活躍する電子音楽家/ビジュアル・アーティスト池田亮司の『superposition』日本初演です!
昨年11月にパリ・ポンピドゥーセンターで初演された「superposition」の新シリーズは、量子力学や量子情報理論を作品化しようとする野心的なプロジェクトで、今回はそのパフォーマンス・バージョンとなります。
「量子力学って難しいのでは?」と思われる方も、ご心配なく。映像と音楽の精密さ美しさに身を委ねるだけでも、圧倒的で贅沢な鑑賞体験をすることが出来るでしょう。でも、もっと作品の背景を詳しく知りたい、と熱望される方の思いにも応えられるよう、関連企画としてシンポジウムが27日(日)17時から開催されます。「“量子の新世紀”のアート&サイエンス」と題して、佐藤文隆(甲南大学)さん、丸山善宏(オックスフォード大学)さんといった研究者達と池田さんとの刺激的なトークが繰り広げられます。司会は、本学の浅田彰教授が務めます。こちらも是非お楽しみに!

公演の情報の詳細はKYOTO EXPERIMENTウェブサイトをご覧ください。
それでは会場にてお待ちしております!

橋本裕介
(KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 プログラム・ディレクター)

タルコフスキー・松田正隆・松本雄吉

10月 01日, 2013年
カテゴリー : プロデューサー目線, 過去の公演 

今回のプロデューサー目線は、11月28日(木)~30日(土)に春秋座で上演します「石のような水」の企画立案者である森山直人先生(京都造形芸術大学舞台芸術研究センター主任研究員)からのコメントをお送りします。

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劇作家の松田正隆さんから、「松本雄吉さんと、もう一度、一緒に仕事がしてみたい」と伺ったのは、もう三年以上前のことになります。残念ながら閉館してしまった大阪・精華小劇場での主催公演『イキシマ』で、お二人は劇作家と演出家として、はじめてコンビを組んで作品を発表なさっていました。関西を代表する二人の現代演劇作家の共同作業が、しかもここ京都芸術劇場で見られるのなら、実現に向けて、どんな努力でもしようと決意したときのことは、つい昨日のことのように覚えています。
それからかなり時間は経ちました。その後、松本雄吉さんの維新派は、「20世紀三部作」の第三部を犬島での見事な野外劇場でフィナーレを飾られ、今年の瀬戸内国際芸術祭での参加作品『マレビト』でも、新たな境地を開いていました。昨年から東京に拠点を移した松田さんは、「フェスティバル/トーキョー」(東京の大規模な国際演劇祭)における「ヒロシマ・ナガサキ三部作」の完結後は、あらためて〈3.11〉以後の「都市」の無意識を探求するユニークな試みに挑んでいます。
そして、いよいよ待望の松本・松田ペアの新作が、あとひと月後に迫っています。
今回の『石のような水』は、劇作家・松田正隆が久しぶりに書き下ろす正統的な台詞劇です。モチーフは、20世紀の大映画監督のひとりアンドレイ・タルコフスキーの『ストーカー』『惑星ソラリス』。松田さんも松本さんも、自他ともに認める映画ファンですが、タルコフスキーについて語っているときのお二人の表情は、ことのほか熱がこもっています。「SF」と「メロドラマ」が混然一体となった濃密なドラマ空間が、――維新派のスタッフの全面的な協力を得て――春秋座を最大限に活用した「幻の都市空間」のなかに立ち上がります。皆様のご来場を心からお待ちしています。

森山直人
(舞台芸術研究センター主任研究員)

「好きこそ物の上手なれ」

9月 01日, 2013年
カテゴリー : プロデューサー目線 

5月1日付で、春秋座の芸術監督が市川猿翁さんから4代目市川猿之助さんにバトンタッチされてからはや4ヶ月経ちました。これに伴い社会普及系プログラムの旗振り役も、私橘から舘野プロデューサーに委譲されました。これからは、猿翁-橘コンビから猿之助-舘野コンビによる企画が立てられることになります。といってもわれわれの企画は1年前には決まっていますので、来年3月までのプログラムは私が立てた企画プラス舘野プロデューサーが急遽入れ込んだものが入ってきます。ある意味では豊富なプログラムになるということですね。それに今年は研究系の催しも数が多いので、現場のスタッフは大変です。
休みもとり難いし、オーバーヒート気味の人も出てきそうです。

こんな時、決め手になるのがモチベーションです。自分が本当にこの仕事が好きなのか、
それともただ給料をもらうために働いているのかということが判明してくるからです。
「好きこそ物の上手なれ」という諺にもあるとおり、好きであればこの難関を乗り越えることが出来ますが、そうでない場合ギブアップしてしまうケースが良くあります。
愛する人のためには何でもしてしまうのと似ていますよね。舞台芸術研究センターのスタッフはモチベーションが高い人ばかりです。きっと、これからの1年を経てさらに逞しくなるものと信じています。

春秋座が京都文芸復興の拠点になるためには、教育目的、研究目的、社会貢献目的の3本柱をバランスよく充実させていくことです。この考え方は杮落とし以来、私の憲法と思って守ってきたつもりです。新しい体制のもと、大学の中に建てられた劇場という特殊性を生かしながら、瑞々しい感覚と湧き出る情熱を注ぎ込んでいってほしいと思います。
春秋座という劇場は、決して単なる大きな教室でも、閉ざされた実験室でもありません。
徳山理事長と市川猿翁が意気投合して産み落としてくれた、この貴重な宝物をいつまでも健やかに育てて行きたいものです。

橘 市郎
(舞台芸術研究センター プロデューサー)

9月に向けて

8月 01日, 2013年
カテゴリー : プロデューサー目線 

芝居の世界では、「二(にっ)、八(ぱち)」は興行の難しい月としていました。冷房も暖房もない時代では、むべなるかな、でありますが、現代においても、この二月(ふたつき)は、劇場にとって有利な月ではありません。特に八月は、旧のお盆休みなどで、人々の関心は、旅行や帰省にあって、劇場にはなかなか向かってはくれません。
 しかし、劇場運営は、舞台で何かを上演するだけが能ではありません。年間を通じての、予算を含めた企画の準備は、休むことなく続けられています。特に今年は、幸いにも文部科学省の「劇場を使った共同利用・共同研究拠点形成事業」という大型の助成金が取れたこともあり、その具体化に追われていますし、また文化庁の「劇場音楽堂等を活性化事業」と「大学を活用した文化芸術活性化事業」の助成金も取れたことから、こちらの計画も、秋口に向かって実現すべく、舞台芸術研究センターは、夏でもフル稼働です。
 これらの企画のうちで、直近のものはといえば、九月上旬から始まる《テーマ研究》「近代日本語における《声》と《語り》」で、1回目は9月6 日(金)18時30分始まりで、「日本の伝統演劇における《語り》―1」と題して、狂言の人間国宝、野村万作師をお招きし、大曲『釣狐』の前段の「妖孤」にまつわる名高い「語り」を、「袴狂言」の形で語って戴きます。狂言は、日本の伝統演劇のうちでも、珍しく「話す芸」を育ててきたジャンルですので、近・現代の「語りの日本語」を、伝統の側から逆照射するには格好の話題だと思います。
 「近代日本語における《声》と《語り》」の2回目は、9月11日(水)18時30分始まりで、「言葉の自立:音曲との関係」と題して、このテーマで数年間にわたって雑誌『新潮』に連載をされてこられた詩人・小説家で表象文化論研究者でもある芥川賞作家松浦寿輝氏をメイン・ゲストにお招きし、本学大学院学術研究センター所長の浅田彰氏に加わっていただき、明治初年の、まさに転換期を生きた樋口一葉の朗読を、後藤加代さんに依頼して行います。
 このテーマ研究の3回目は、10月4日(金)18時30分始まりで、いささか時間軸が錯綜しますが、「日本の伝統演劇における《語り》―2」として、能の観世銕之丞、片山九郎右衛門両氏に御参加いただき、「言葉」を重視した観阿弥・世阿弥の系譜を、論じていただきます。各回とも、モデレーターは渡邊です。
 春秋座を用いた実験的な研究会ということで、入場は無料で、申し込み不要です。

渡邊守章
(舞台芸術研究センター所長・演出家)

チャイコフスキーの3大バレエが今年で完結

7月 01日, 2013年
カテゴリー : プロデューサー目線, 過去の公演 

春秋座では7月6日(土)、7日(日)にオペラ「蝶々夫人」を上演するのに続いて10月6日(日)にはバレエ「眠れる森の美女」を上演いたします。
イタリアでは、バレエがもともとオペラの一部として行われていたのですから、オペラとバレエが春秋座で相次いで行われるのもご縁ですね。オペラが声の芸術とすれば、バレエは身体の芸術といっていいでしょう。
イタリアやフランスでは当初、舞踊手は男性でした。中でもルイ14世が宮廷バレエの舞踊手でもあったことは有名です。この頃のバレエはロマンティック・バレエと呼ばれドラマ性に富んだものでした。やがて18世紀に入って女性ダンサーが登場し、純粋に動きを追求するクラシック・バレエが誕生します。練習の方法や指導方法も研究され、踊りの基礎とも言うべきメソッドが確立されたのは 19世紀半ばのことです。
特にロシアではチャイコフスキーがバレエ音楽の傑作を生み出し、「白鳥の湖(1876)」「眠れる森の美女(1889)」、「くるみ割り人形(1892)」、の3大バレエが誕生しました。
その後、モダンバレエの時代になり、一口にバレエといっても幅が広くなっています。
しかし、何といっても、チャイコフスキーの3大バレエは誰からも愛されるロマンティック・バレエの傑作でしょう。大変親しみやすい劇的な音楽をバックに、幻想的な物語が展開されていく舞台は、文句なく引きつけられます。
子供の頃これらの作品を見て、ぜひ自分もバレエを習いたいと思った人は少なくないでしょう。また、これからも少年少女たちを魅了するに違いありません。
春秋座では、これまでに、「白鳥の湖」と「くるみ割り人形」を上演しましたが、今年はいよいよ「眠れる森の美女」です。これをもって春秋座ではチャイコフスキーの3大バレエが完結されることになります。
ロシア・ナショナル・バレエの「眠れる森の美女」は芸術監督エフゲニー・アモーゾフが
精魂傾けた作品で、8年前に来日した時、東京を始めとする各都市で絶賛されました。今回の京都公演はさらにグレイドアップされています。どうぞ、ご期待ください。

橘 市郎
(舞台芸術研究センター プロデューサー)

* チャイコフスキーの3大バレエ作曲年代は音楽の友社発行の音楽辞典によるものです。

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