エッセイ・ミュージカル『江分利満氏の優雅な生活』

12月 01日, 2011年
カテゴリー : プロデューサー目線 

 プロデュースと言う仕事は、元来何もないところから企画を立て、予算立てをし、キャスト、スタッフを決めて公演を実現することです。私もミュージカル『君よ知るや南の国』『私はオンディ-ヌ』『ハムレット』『原宿物語』『イダマンテ』『ブルーストッキング・レディース』などでは、文字通り全てをプロデュースしてきました。春秋座の場合は予算的にも、本数的にも全部が全部オリジナルというわけには行きません。どうしても、全体のバランスを考え、大学の中に建てられた劇場の企画としてふさわしい、バラエティに富んだ作品を買うことが多くなります。いいものを選ぶ目とセンスが問われるわけですね。作品を選ぶ際、実際に見て決めることもあれば、演目やスタッフ、キャストを見ただけで決めることもあります。後者の場合には、それ相当の経験が必要です。ある意味では競馬の勝ち馬を当てる能力と通じるところがあります。記憶力とデータ収集力、そして勘です。

 12月17日(土)に春秋座で上演されるエッセイ・ミュージカル『江分利満氏の優雅な生活』は、正に見ないで決めた作品なのです。
原作者の山口瞳さんは、私が最も好きな作家で、ほとんどの作品を読んでいます。この人の文章は判りやすく、リズム感があり、描写力に優れています。反骨精神が溢れる力強さの中に、笑いとペーソスが存在しています。直木賞作家、山口瞳さんは、昭和という時代が生んだ代表的な作家と言って間違いないでしょう。

 この原作をミュージカル化しようとしたインターナショナルカルチャーの松野正義社長と故人の草刈清子さんとは何本もの仕事をいっしょにしてきました。音楽の甲斐正人さんとは彼が芸大時代からのお付き合いで、私はその才能を早くから認めていました。期待通り、今や大御所となっている方です。そして演出の竹邑類さん、私が日劇で制作をしていた頃から、すでに斬新な振付で活躍されていた大ベテランです。それに、山口瞳さんのご子息である山口正介さんが監修してくださっています。しかも、いろいろなミュージカルで実力を発揮しているジェームズ小野田さんが主演ときたら、間違いなく買いでしょう。

 山口瞳さんのエッセイ(小説)がミュージカルになるということに関しては、私も想定外でした。しかし、山口瞳さん自身がこのミュージカル作品を気に入っていたという事実が、何よりも心強いデータです。「テネシーワルツ」「スーダラ節」「東京の屋根の下」「海ゆかば」など昭和の懐かしい歌を散りばめたエッセイ・ミュージカル『江分利満氏の優雅な生活』は私自身が一番わくわくしている作品なのかも知れません。

 今回は、山口瞳さんの作品の挿絵や本の表紙を担当されていた、トリスおじさんでお馴染みの柳原良平さんが、わざわざチラシのイラストを描いてくださいました。この方のイラストを見て、「昭和という時代は、夢と希望に満ち溢れていたなあ」と郷愁を感じるのは私だけでしょうか?

橘市郎
(舞台芸術研究センター プロデューサー)