年の初めに-恒例の能・狂言公演と「劇場の記憶」-

1月 01日, 2012年
カテゴリー : プロデューサー目線 

明けましておめでとうございます。余りにも壊滅的な出来事が、しかも多方面で起きた2011年の教訓をしっかりと反芻しながら、今年も舞台芸術研究センターとしては、劇場芸術が危機の最中で何が出来るのかを常に反省しつつ、独りよがりではなく、現代の世界に向かい合うことのできるような作品を世に問うていく覚悟です。過日の金梅子先生の韓国舞踊の、ワークショップも舞台もパネル・ディスカッションも、大変素晴らしく刺激的であり、多くの発見があったことは、今後の企画にもよい刺激となるはずです。
2011年度の最後の三カ月は、学生の授業発表や卒業制作が犇めいていますので、春秋座を使った公演は減りますが、しかしその中でも、恒例の能・狂言【2月18日(土)14:00開演】が最も魅力的でしょう。能の中でも上演頻度の高い『葵上』と、狂言は野村万作・萬斎師の『末広がり』です。中でも、観世銕之丞師をシテの六条御息所の怨霊とする『葵上』は、春秋座の歌舞伎舞台を活かして、通常の能舞台では見られないスケールの大きい作品となるはずです。日本ほど、過去の出来事や経験を忘れるのに優れている国民は居ないなどと、《外からの視座》は、常に批判しますが、舞台芸術のような、それが実現した具体的な時間と場所から切り離して論じるのが難しい《芸術表象》の場合には、だからこそ《記憶》が重要なのだと言うことは、当事者としては常に言い続けなくてはならないことだと思います。
その意味で、2011年度には、公開講座として『舞台芸術の半世紀』を分析しつつ、その現在を問い直す企画を立てました。その最終回は、1月17日(火)18時から、内外のオペラやダンスに詳しい浅田彰大学院長と、1956年に最初にフランスに留学した時から、パリを中心としたヨーロッパの《劇場文化の変容》を目の当たりにしてきた渡邊とで、焦点をオペラとダンスに当てつつ、過去半世紀に劇場で生じた変革とその現在における成果とを論じて見ようと思います。司会は、この企画の策定に当たった森山直人教授です。
DVDのような媒体だけではなく、クラシック音楽番組に特化したTVチャンネルもある時代ですから、ある意味では、前代未聞の情報の氾濫だとも言えますが、そうしたネットワークにどう対応するのかも、「舞台芸術の記憶」を論じる際に、避けては通れない《問題形成の場》なのだと思います。

渡邊守章
(舞台芸術研究センター所長・演出家)