9月に向けて

8月 01日, 2013年
カテゴリー : プロデューサー目線 

芝居の世界では、「二(にっ)、八(ぱち)」は興行の難しい月としていました。冷房も暖房もない時代では、むべなるかな、でありますが、現代においても、この二月(ふたつき)は、劇場にとって有利な月ではありません。特に八月は、旧のお盆休みなどで、人々の関心は、旅行や帰省にあって、劇場にはなかなか向かってはくれません。
 しかし、劇場運営は、舞台で何かを上演するだけが能ではありません。年間を通じての、予算を含めた企画の準備は、休むことなく続けられています。特に今年は、幸いにも文部科学省の「劇場を使った共同利用・共同研究拠点形成事業」という大型の助成金が取れたこともあり、その具体化に追われていますし、また文化庁の「劇場音楽堂等を活性化事業」と「大学を活用した文化芸術活性化事業」の助成金も取れたことから、こちらの計画も、秋口に向かって実現すべく、舞台芸術研究センターは、夏でもフル稼働です。
 これらの企画のうちで、直近のものはといえば、九月上旬から始まる《テーマ研究》「近代日本語における《声》と《語り》」で、1回目は9月6 日(金)18時30分始まりで、「日本の伝統演劇における《語り》―1」と題して、狂言の人間国宝、野村万作師をお招きし、大曲『釣狐』の前段の「妖孤」にまつわる名高い「語り」を、「袴狂言」の形で語って戴きます。狂言は、日本の伝統演劇のうちでも、珍しく「話す芸」を育ててきたジャンルですので、近・現代の「語りの日本語」を、伝統の側から逆照射するには格好の話題だと思います。
 「近代日本語における《声》と《語り》」の2回目は、9月11日(水)18時30分始まりで、「言葉の自立:音曲との関係」と題して、このテーマで数年間にわたって雑誌『新潮』に連載をされてこられた詩人・小説家で表象文化論研究者でもある芥川賞作家松浦寿輝氏をメイン・ゲストにお招きし、本学大学院学術研究センター所長の浅田彰氏に加わっていただき、明治初年の、まさに転換期を生きた樋口一葉の朗読を、後藤加代さんに依頼して行います。
 このテーマ研究の3回目は、10月4日(金)18時30分始まりで、いささか時間軸が錯綜しますが、「日本の伝統演劇における《語り》―2」として、能の観世銕之丞、片山九郎右衛門両氏に御参加いただき、「言葉」を重視した観阿弥・世阿弥の系譜を、論じていただきます。各回とも、モデレーターは渡邊です。
 春秋座を用いた実験的な研究会ということで、入場は無料で、申し込み不要です。

渡邊守章
(舞台芸術研究センター所長・演出家)

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