対談企画 鬼頭健吾×大庭大介

作家になれる人、世界で活躍できる人は、大学院で何を学び、何を得るか。

鬼頭 健吾

芸術研究科 総合造形領域 准教授

1999年、アーティストによる自主運営スペース「アートスペースdot」(西春町、愛知県)の設立、運営に参加するなど大学在学中から活動を始め、インスタレーションをはじめ絵画や立体など多様な表現方法を用いた作品を国内外で発表している。2008-2009年、五島記念文化財団の助成を受けニューヨークに滞在。2010年、文化庁新進芸術家海外研修員としてドイツ、ベルリンに渡る。主な展覧会に「ベリー ベリー ヒューマン」(豊田市美術館、2005年)、「六本木クロッシング2007:未来への脈動」(森美術館、2007-2008年)、「アーティスト・ファイル2011─現代の作家たち」(国立新美術館、2011年)「Mono-no-Aware」(エルミタージュ美術館、2013-2014年)「Migration」(群馬県立近代美術館,2015年)など。

大庭 大介

芸術研究科 ペインティング領域 准教授

1981年 静岡県生まれ、画家、主に偏光パール絵具を用いて、「関係/場/絵画」をテーマに制作。2005年 京都造形芸術大学美術・工芸学科洋画コース(総合造形)卒業。2007年 東京藝術大学大学院美術研究科油画研究領域修了。 2013年「flowers~一斉に芽吹く春の花のように~」十和田市現代美術館(青森)、2013年「TRICK-DIMENSION」TOLOT(東京)、2012年「大庭大介個展、永劫の灰、是を辿り」SCAI THE BATHHOUSE(東京)、2011年「The Light Field」大和日英基(ロンドン)2012年「超群島 ライトオブサイエンス」青森県立美術館(青森)、2012年「Emotional Material」 3331Arts Chiyoda(東京)、2012年「超群島HYPER ARCHIPELAGO展」EYE OF GYRE(東京)、2011年「堂島リバービエンナーレ2011」(大阪)他、個展、グループ展多数。

大学院は、たくさんの時間と出会いを活かして、
自らを発酵させ、作家になるための土台をつくるところ。

大庭大介 > 僕が初めて鬼頭さんを知ったのは、京都造形芸術大学の学部生だった頃でした。鬼頭さんが大学院の修了制作展をされていて、その展示がすごくかっこよかったのを覚えています。この人は何か違うなと思って、ずっと頭の中に鬼頭健吾という名前がすり込まれていました。その後、共通の知人である先輩の紹介で知り合って、それからもう10年くらいのお付き合いになりますね。一番大きな出来事は、2008年に鬼頭さんが起点となり、作家のネットワークにより作家視点でメンバーが決められ、さまざまなアート関係者を巻き込みながら、21名の若手アーティストの企画展として開催した「THE ECHO」展に、僕も関わらせてもらったことです。鬼頭さんは、当時からとても顔が広くて、声をかけると作家がすぐに集まるという核になるような人物でしたね。

鬼頭健吾  > 顔が広いというか、学生の頃からわりと積極的なほうで、いろいろなところに顔を出していましたからね。大学院時代も、よく遊んだし、制作以外の無駄なことを随分たくさんやりました。その頃に、横のつながりを築けたこと、大庭さんのように一緒にやっていける仲間と出会えたことが、意外と後々に生きてきています。そう考えると、作品以外のところで楽しんでいるかということも大切ですよね。大学院時代は、少なくともまだ社会から何かをつくってほしいとか、作品を求められる状態では無いわけで。平均寿命を考えると、その後の人生で40~50年作品をつくっていく中のスタートラインにいるわけです。大学を出て、そこからずっと一人でアートをしていけるかというと難しいし、アートは作家一人で成立する世界ではありません。学内外を問わず、いろいろなところにつながりをつくるべきでしょうね。

大庭大介 > 僕も、プロを目指すのであれば、自分の作品と向き合うだけではなくて、プロで活躍している作家の背中を見ることが、まず大事だと思っています。そういう点で僕がラッキーだったのは在学中に先生や先輩作家に恵まれたことです。京都造形芸術大学在学中には、小谷元彦先生との出会いがあり、少し上の世代で既にメディアに出始めていた鬼頭さんの存在があって、先輩や先生の手伝いに行ったり、一緒にご飯を食べにいったりする機会が多くありました。こうした関係を通じて「作家ってこういう仕事なんだ」「こういう活動をしているのか」と、肌で感じながら学べたことが一番大きかったと思います。

鬼頭健吾  > 僕の場合は反対に、そういう先輩はいなかったので自分で道を考えながら進んできたのですが、意外と“最短の道は無い”ということに気づかされました。制作の場においては、それまでに経験した無駄や失敗が気づきを与えてくれることも多い。だからこそ、大学院時代は少し余裕を持つというか、その後作家でやっていくためのベースをつくるための猶予期間として考えると良いと思います。

大庭大介  > 大学院で学ぶ意味を考えると、制作・研究を中心として2年間じっくりものをつくりながらも、先生方をはじめいろいろな人と出会って、話をして、自分が“発酵される時間”というか、そういう時間が人生の中にあることは、すごく重要だと思いますね。この大学院には世界的に活躍する作家が教員として何人もいて、間近で制作に取り組む姿を見ることも、自分の作品を見てもらうこともできます。今年からそこに鬼頭さんが加わり、教員の世代的なバランス的にもある種、僕が考える理想に近づいたのではと感じています。

大庭 大介

LOG(Tree)2013 アクリル、綿布、パネル 225×180×4.6cm
photo:OMOTE Nobutada .Courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

ULTRA AWARD ウルトラアワード
鬼頭 健吾

active galaxy 2014 photo: 木暮伸也

京都という場所で、日本人としての足もとを固める時間を。

大庭大介 > 鬼頭さんは、先日帰国されるまで、ニューヨークやベルリンなど、海外に長期滞在して活動をされていましたね。海外と日本の違いを感じる部分はありますか?

鬼頭健吾  > アーティストという存在が、日本とは違う良い意味での認識のされ方をしていました。アーティストが職業として、社会の中に存在していいものとして認められているというか、言い方は変ですが、“当然そういう人たちがいる”ということをみんなが知っている状態がありました。人数にしてもアートに興味がある人が、日本の比ではないですね。ある意味、日本でいう“お茶”のようにアートが捉えられていて、茶道がまずしきたりを覚えるところから入るように、アーティストは当然のように歴史的・文化的なコンテクストを学んだ上で、制作に取り組んでいました。いきなり私的な表現に入ろうとするのではなく。

大庭大介 > 僕も大学院時代に先輩の助言や経験の中で、ARTにおけるコンテクストの重要性に気づいて美術史や哲学の勉強を始め、今でも続けています。それが確実に作家としての土台になっています。また、僕自身は海外に長期滞在した経験はありませんが、描いた作品の多くがギャラリーを通して海外で発表をさせていただいています。その中で感じることとして、まずは”自分の足もとにあること”をしっかりと認識しなければならないと感じています。日本に足場がありながらも、グローバルに通用する表現について常に考察しています。

鬼頭健吾  > 同感です。グローバルという言葉がよく言われますが、そのはじまりはローカルなのです。結局、作家その人の人生であったり、生き様から出発するしかないのだと思います。

大庭大介 > そういう意味でも京都という場所そのものが、日本人にとってすごく意味を持つ場所です。古いものと新しいものがいい具合に融合している町。この大学院に来て、京都でARTを学べる時間は、非常に貴重なものですね。

鬼頭健吾  > 僕自身も京都で過ごした大学院時代は、他の研究科のフィールドワークに同行して寺社を見学したり、さまざまなものを見ました。今でも陶芸などに興味があります。

学生のために、今、必要なことをする、Pr PROJECTS。

鬼頭健吾 > 今年からこの大学院にやって来て、大庭さんと2人でPr PROJECTSの運営に取り組んでいくことになっています。

大庭大介  > Pr PROJECTSは、“Painting”のPと、もう一度改めて考えるという意味の“Re consider”のR、そして、まさに“Public Relations”のPRを組み合わせて生まれたプロジェクト名です。この大学院の魅力のひとつでもあるのですが、非常に臨機応変な運営ができるようになっています。年間のスケジュールをあえて決めずに、学生の状況を見ながら、たとえば「この学生のために、今この作家を呼ぼう」ということがスピード感を持って実現できるのです。僕は、学生が「やらさている」と1秒たりとも感じたら失敗だと考えていて、一人ひとりが自主的にやる気をもって取り組めるようなプロジェクトになっていると考えています。2014年は、東京芸術大学大学院、東京造形大学大学院、名古屋芸術大学大学院との交流展やコレクターやギャラリスト、評論家、アーティストにお越しいただき、講演会や講評会を行いました。

鬼頭健吾 > 自分がこうしてきたからこうしなさいと学生たちに押しつけるのではなく、一人ひとりが自分たちで考えられるように応援していきたいと思っています。

大庭大介 > 教員として上から教えるという立場ではなく”チャンスの場”を提供して、後は各々の自主性に任せてやってもらう。ただし、その場として最高の環境と出会いを用意するというスタンスで学生と向き合っています。やはり、作家になるには自分から発せられる強い意志が何より大事ですからね。

鬼頭健吾 > 自主性や積極性は、とても重要ですね。「ここにこの人が来るなら、絶対に作品を見てもらう」とか、「ハイ!」と手を挙げたものが勝ちというというケースも実際にある。やはりアートの世界は、これぽっちも平等ではないので。その中で、一歩抜きん出ていく。そういう人が、この大学院から生まれていって欲しいと願っています。

資料請求 あたらしいパンフレットができました。