文芸表現学科

卒業生インタビュー01 加藤ゆうと

 
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加藤くんは、この春にクリエイティブ・ライティングコースを卒業した三期生です。
卒業後はブックオフコーポレーション株式会社に就職し、ブックオフの店長を目指して頑張っています。
入社して3ヶ月、仕事の様子などについて話を聞きました。

 
 
 
僕と同い年の会社
 
 
――加藤くんは、かなり早い段階で内定をもらって就職を決めましたが、
この仕事を選んだ理由は何だったんでしょう?

 
どんな仕事でも良かったんですけど、知らない企業を受けるということはあまりイメージしていなかったです。
ブックオフは小学生の頃からよく通っていたので。
 
 
――小学生の頃にはもうあったんだ(笑)。加藤くんは平成生まれですよね?
 
そうです。
ブックオフって、創業20年くらいで、だいたい僕と同い年なんです。(※)
それで、よく知っていたというのが大きいです。
 
 
――よく知っているだけなら、マクドナルドとか、ほかにも選択肢はあったと思うけど。
 
まあ単純に、本が好きだったんです。それにマンガやCDやDVDなんかにも愛着があったし。
ブックオフには普通の本屋さんとちがって、いろんなものが置いてあるし。実際に働いてみて、僕が中学生くらいのときにはまってた本が今でも売れてると嬉しいです。『ハンター×ハンター』とか『ドラゴンボール』とか、一時期は売れずに残ってたんですけど、アニメがリニューアルされて、いまの子どもたちにまた人気が再燃して、バカ売れしてます。
 
だから、いまは売れてないけど、在庫しておけばまた売れるものも出るかもしれないんですね。
そんなことしてると、倉庫がいっぱいになっちゃうんですけど。
あと、普通の本屋は静かじゃないですか。
でもブックオフは「やまびこ」だったりとか、活気があるイメージが良かったんですよ。
 
 
――やまびこ?
 
「いらっしゃいませー」と誰か一人が言うと、ほかのスタッフが全員やまびこするんですよ。
「いらっしゃいませ」「いらっしゃいませ」「いらっしゃいませ」って。
もしお客さんが「いらっしゃいませ」って言ったとしても、
スタッフは気づかず言っちゃうと思います。
「いらっしゃいませ」「いらっしゃいませ」って(笑)。
 
 
※ブックオフ1号店のオープンは1990年5月。加藤くんも1990年生まれです。
 
 
 
 
 
店長をめざして
 
 
――入社して3ヶ月ほどですが、いまはどういう仕事をしているんですか?
 
最初の一週間くらいは神奈川で研修を受けて、いまは愛知県尾張旭市で店長見習いとして働いています。
店長が育成担当者として、僕ともう一人同期の人とを見てくれているんですけど、店長はエリアマネージャーとしてほかにも3つの店舗を同時に担当しているので、べつの店舗に出かけていて不在のことも多いです。
 
だから、僕らは、バイトリーダーの人に教えてもらうことも多いです。
仕事のことは、バイトの人のほうが経験があるので、とにかくお店全体で育ててもらっているかんじです。
 
基本的に仕事内容はバイトも社員も同じで、買い取りをして、それを加工して、棚に並べて、レジで売るっていうことをしてます。ブックオフの仕事って、単純にその4つのサイクルだけなんですよ。たまにレコードを持ってきてくださるお客様もいるんですが、レコードは取り扱いをしていないのでお断りするようなこともあります。
 
あとは、買い取りの際に古物取引書というのを交わすんですが、それをあとでチェックするとか、そういう社員や店長の業務などもちょっとずつ教えてもらってます。店長業務はバックヤードというか、裏方の仕事があるんですね。
 
 
――社員の仕事と、店長の仕事に違いはありますか?
 
社員はとりあえず店長を目指すところからスタートするんです。でも、その前に辞めちゃう人もいます。普通に真面目に取り組んでいれば店長になれるんですけど、店長業はすごく大変そうです。
 
近くの店舗に、入社2年目の先輩がいて、よく一緒にご飯にも行くんです。その先輩はその店で、初めて店長をやっているんですが、いろいろ大変そうです。僕がいる店は、スタッフさんも明るくて真面目だし、とてもいい感じなんですけど、先輩の店は要となっていたバイトリーダーの人が辞めちゃったり、チームワークがうまくいかなかったりして、問題が多いんですね。入社2年目にもなると、そういうお店の立て直しに抜擢されたりするようです。
 
ブックオフにはキャリアパスプランっていう昇給制度があって、ランクがあがるとお給料もあがる。それはスタッフも社員も地つづきなんです。がんばればスタッフも社員になれます。
 
良いスタッフが揃っていると、そのぶんお給料も多く払わなきゃいけないんですけど、お店の売上もあがっていって、良い循環になるんです。人が育たないお店って、やっぱり売上もとれないです。ブックオフは人が成長しないと、お店が成長しないっていう考え方なんですね。
 
だから、育成担当者の店長は、僕のことをよく見てくれています。毎日一緒にいるわけじゃなくても、よく見てくれてる。僕のチャレンジ項目にスピードアップというのがあるんですけど、スピードはだいぶん早くなったんですよ。でもいま人が足りなくなってきてるから、次に新しい人が入ってきたら僕が教えないといけないんで、自信をもって人に教えられるくらいオペレーションができるようになろうと言われてます。単にスピードがあがったからランクをあげるんじゃなくて、僕のことをしっかり見てもらっているなと思います。
 
あと、僕が人として足りない部分とか、もっと成長しなきゃいけない部分なんかも優しく教えてくれますね。
 
 
――具体的には何が足りないと言われますか?
 
僕はやっぱり人の話を聞くのが苦手(笑)。我が強いから。
そういうことを言われると刺さるけど、自分と向き合わなくちゃいけないって思います。
そういうのは、小説を書いてたときにも思いましたけど、同じだなって。
 
 
 
 
 
けっきょく人が好きなのかも
 
――加藤くんは学生時代、小説を書くだけじゃなくて、ARTZONE(※)の運営に参加したりと、いろいろやっていましたが、なにが自分のなかに残っていますか?
 
千野さん(※)の文芸論かな。
僕は中学生のときに星新一を読んだくらいで、もともとあまり本を読んでこなかったんです。
1年生のときの百讀(※)は面白かったですよ。
 
でも、文芸論では百讀よりもうちょっとレベルアップした小説というか、百讀を読んでおかないと分からないような小説を毎回読むんです。それで、ほんとうに小説は面白いなって、どんどん深まっていって。あの授業は大きかったなと思います。それに、千野さんの授業で読んだ本に影響されて、僕も二人称小説に挑戦してみようという気になったということもあります。
 
 
――他にも、ねぶたのTA(※)もやってましたよね?
 
2年生のときにTAとして1つのクラスを担当したんですけど、ぜんぜん上手くいかなくて(笑)。僕が学生リーダーを決めたんですが、信頼していたリーダー達がソリが合わないとかで揉めだして、夕方に公園で反省会したりもしたけど、結局リーダー交代になりました。
 
ただ、最後に「たいへんなクラスだったけど、このクラスで良かった」って言ってくれた学生がいて、むちゃくちゃ上手くいかなかったからこそ、学ぶことがあったんだなと思いました。自分がねぶたをやっていた1年のときにもリーダーをやったんですけど、そのときは僕がピエロ役で、他にしっかりしたリーダーもいて、とバランスが良かったんですよ。でも、バランスが取れないからこそ生まれるものもあるというか、人間同士ちゃんと腹を割ってぶつからなきゃいけない瞬間っていうのもあるな、と。
 
ふりかえってみると、ねぶたのリーダーも、TAも、いまの店長の仕事につながるのかなと思います。店長の仕事ってほとんどがスタッフのトレーニングなんですよ。理想としては、店長の意志がみんなにちゃんと伝わっていて、僕がいなくてもお店がちゃんとまわっているようになると良いなと思います。
 
 
――加藤くんはやっぱり人が好きなのかな?
 
そうかもしれません。女の子はちょっと卒業しようと思ってますけど(笑)。
 
 
 
※ARTZONE
河原町三条にあるArt Project Room。学生が主体となって、展覧会、ワークショップ、音楽イベント、トークショー、出版物など、さまざまな企画を実施・運営している。
HP→http://artzone.jp

 
※千野帽子さん
文筆家、京都造形芸術大学客員教授。
文芸表現学科では百讀や文芸論、俳句授業を担当している。

 
※百讀
文芸表現学科の1年生必修科目。古今東西100冊の本を読み、要約とコメントを書く。
ハードルは高いが、実りは大きい授業ですよ。

 
※ねぶたTA
京都造形芸術大学の1年生夏休みに、2週間かけて「ねぶた」を制作する授業がある。
学科混合のクラスで朝から晩まで、制作に取り組む。

 
 
 
 
 
仕事も小説も、どっちも頑張るほうがかっこいい
 
 
――学生にアドバイスや、伝えたいことはありますか?
 
僕はいま店長になることも目指してますけど、小説も書いてます。知り合いの映画プロデューサーに頼まれて、京都を舞台にした青春群像劇みたいなものを150枚とか、200枚くらい、映画の原作小説となるので、いわば仕事として書いてます。だからプレッシャーはあるんですけど。
 
仕事から帰ってきて、遅いシフトだと22時30分とかになるけど、それから1時間とか2時間、あまり時間は決めずに書いてますね。
 
僕はなんか、ほんとうに運が良いんだなと思うんですよ。いまの育成担当者も周囲から評価の高い信頼できる人だし、小説のことも話したら、両方がんばればいいじゃんって言ってくれて。いちおう、文化的活動は兼ねてもOKらしいです(笑)。そういう人との出会いとか、すごく運がいいんだなって思うんですよ。僕、ポジティブなんで(笑)。いっこいっこの誰かとの出会いみたいなものを、無かったことにはしないというか、すごく楽しんでるんです。それは良いことなのかな、と思いますけど。
 
メッセージというのは難しいな、いきなり言われても(笑)。うまく言えないです。
 
 
――じゃあ、目標のようなものはありますか?
 
もう辞めちゃったけど、津村記久子さんがサラリーマンと小説家を両立させてましたよね。僕は、そういうのがいいなと思ってて。浅井リョウ君も東宝に就職していて、長く働きながら書いていきたいと言っていたし、そういう人を見ていると、アルバイトしながら書くよりは、なんらかの職業に就いて、仕事を真面目にやりながら、小説も両方やっていくっていうほうが、僕はかっこいいなと思ってます。
 
 
――いいね。がんばってください。
 
がんばります。
 
 
 
(文・たけうち)

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