こども芸術学科

卒業生リレーメッセージ1:田中保帆|学生紹介


アルス・ノヴァ 障害福祉施設勤務:田中保帆さん(1期生)



こども芸術学科は、京都造形芸術大学芸術学部の中でも新しい学科で、卒業生が現在まだ社会人2年生(一昨年度卒業の1期生)と社会人1年生(昨年度卒業の1期生)のみですが、卒業生たちは、保育、福祉、教育から一般企業まで幅広く活躍しています。

そこで卒業生のみなさんに、現在のお仕事や、学生時代の学びをふりかえっていただくリレーメッセージを書いて言っていただこうと思います。

こども芸術学科での学びが、いまのお仕事にどう役立っているのか?、どんな仕事をしているのか!第一回のメッセージは、1期生 田中保帆さんです!

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田中保帆さんからのメッセージ

こんにちは。
こども芸術学科一期生の田中保帆といいます。
先生からリレーメッセージの第一回を頼まれて、何書けばいいのか全然分からないまま引き受けてしまい、随分悩みながらキーを叩いています。
私がこども芸術学科を卒業して、ちょうど1年半。
在学中はプロジェクトやイベントの企画やワークショップなどで、ドタバタとした毎日を送っていました。

今、私は浜松のNPO法人クリエイティブサポートレッツが運営する、「アルス・ノヴァ」という、ちょっと変わった障害福祉施設で働いています。
「アルス・ノヴァ」は障害を持っている人が通うところで、大人の人は朝から各々自由なことをして過ごし、こどもは支援学校が終わってからやってきて自由に遊びます。
私はこどもの方の担当。
毎日こどもたちと遊ぶ他にも、大人とも関わるし、学校や親御さんとお話ししたり、チラシのデザインをしたり、イベントの企画をしたり、展覧会の設営に出向いたり…と、仕事はいろいろ。

田中保帆さん1

「アルス・ノヴァ」では、こちらから利用者に何かをさせるということがほとんどありません。
その人がやりたいことや得意なことを、社会と繋げていく仕事をしています。
こどもの場合は、こどもたちが本当にやりたいことをどうやったらできるのか、伸ばしていけるのか、考えていきます。
「アルス・ノヴァ」に通う人たちは、それぞれに独自の特徴があります。
制服のままプールに飛び込んだり、車のドアを何十回も開け閉めして動かなかったり、紙を見つければビリビリに破いて部屋中にまき散らしたり…。
例えば、それが一般的に「問題行動」と呼ばれるものであっても、その人のありのままのステキなところを見つめていきます。
プールに飛び込む前に水着に着替えれば、飽きるまで待つ時間が持てれば、あとで掃除をすれば、それらは「問題行動」ではなくなります。
変えるべきものは行動ではなく、周りの環境や目線だと考えています。

障害をもったこどもたちと関わっていると、言葉にならない苛立ちや伝えきれない思い、やりたくて仕方がないことを止められてしまう悔しさが、ひしひしと伝わってくることがあります。
それは誰もがこどものころに経験してきた感情と何ら変わりのないものですが、大人になるにつれて忘れていくものでもあります。

田中保帆さん2

何度も読み返してかすれた絵本の表紙や、木いちごがなっていた公園、ひみつ基地の湿った匂い、大きい音が苦手だった幼稚園のクジャク、毎日のように通った駄菓子屋さん、黄ばんだぬいぐるみ。
こどものころに感じていた生活の中の些細なこと。日々の輝かしさや心の揺らめきは、確かにそこに存在していたはずなのに、いつの間にかそれは意味のないものになっていきます。

こども芸術学科は、こどものもつ目線や感覚を大事にします。
私たち自身の中にある記憶や経験、こどものころから培ってきたものを通じて、作品を作ることや、人と関わっていくことを大事にします。
そういうことを大事にしながら、保育のことや福祉のことを勉強していると、それらが向かう先は全て、自分自身であるように思うのです。こどもと関わるとき、また、こどもだった人と関わるとき、自分のことのように考えられるのは、非常に大事なことです。
こども芸術学科で学んだというよりも、学んでいく中で思い出したという方が近いのかもしれません。
無意識の中で惹かれる、なんだかステキだなと思うこと。そういう、個人に根ざした感覚をもって利用者と向き合っていける「アルス・ノヴァ」という職場と出会えたことは、私にとってとても幸せなことでした。

今も、こども芸術学科で学んだことや先生の言っていたことを、ふと思い出すことがあります。ふわふわと浮いていた言葉たちが、雨が降って地面に染み込むように、スッと「あ、こういうことか」と、分かる瞬間が多くあります。
こども芸術学科で学んできたことも、もっと前から知っていたことも、今の生活や仕事と結びつきながら、何年も何十年もかけて私に蓄積されていくものなのだと思います。

長くなりましたが、私がこども芸術学科で学んだことと、今の仕事はこんな感じです!
今秋、「アルス・ノヴァ」での生活を見つめる個々の職員の目線を、ドキュメント展「佐藤は見た!!!!!!プラス」で伝えています。
浜松にお越しの際は、アルス・ノヴァも併せてぜひお越しください。

アルス・ノヴァ

●10月6日(土)~11月4日(日)

ドキュメント展「佐藤は見た!!!!!!プラス」

福祉施設で働く職員の目で見た施設の日常。そこで毎日過ごす職員だからこそ見い出す日常のおもしろさ、それを普段は施設や障害のある人と接点を持たない方たちに伝えるためのドキュメント展を開催します。
会場:元文泉堂書店跡地(浜松市中区連尺町314−1)

時間:木・金 16:00~19:00 土・日 13:00~19:30

主催:NPO法人クリエイティブサポートレッツ http://homepage2.nifty.com/lets-arsnova
共催:障害福祉サービス事業所アルス・ノヴァ http://arsnova22.exblog.jp
協力:株式会社高忠商会、大東翼建築設計事務所
協賛:リシュモンジャパン株式会社
特別協賛:アサヒビール株式会社
助成:公益財団法人アサヒグループ芸術文化財団
後援:浜松市

田中保帆
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(浦田雅夫/子ども家庭福祉・心理臨床)

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