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学長メッセージ

2013年3月11日、月曜日の午後、それは私にとって、とても感慨深い午後でした。東京からの帰途、京都造形芸術大学の人間館に立ち寄りました。通信教育部の卒業制作展が行われており、私はこの年の4月1日、本学の学長に就任することになっていたので、学習のためにその展覧会を見学しようと思ったからです。

通信教育部芸術学部の上田篤部長たちにご案内いただいて、すべての作品を見て廻りました。作品の一つひとつから、芸術を志す学生たちが卒業制作として真っ向から取り組んだものであることが、みごとに伝わってくるのに驚かされました。これほど強い意志が伝わってくる展覧会の会場を、私は経験したことがありません。力の入った作品群を見て、これから取り組む学長の仕事のやり甲斐を実感した刺激的な午後でした。この日、2011年東北地方太平洋沖地震の発生によって、東日本大震災が起こってから2年という日でした。

私の専門分野は地球科学であり、変動帯に位置する日本列島に起こる巨大地震の仕組みを、くわしく正確に市民に伝えることが私の役目であると思いながら、2年を過ごしてきた日でもありました。芸術の分野で学長としての仕事をするにあたり、この通信教育部の卒業制作展の作品が訴えかけてくる力をまのあたりにして、科学の分野から貢献できる何かが、あるいは科学の分野と連携できる何かがあると、確信しました。

京都造形芸術大学の建学の理念が、2013年5月13日の日付で、インド南部を産地とする黒御影石に刻まれ、本学の入り口に建ちました。同様の碑が連携している東北芸術工科大学の丘にも建っています。そこには、藝術立国のタイトルとともに、「宇宙の神秘に平伏せ、地球の偉大さに畏れを抱け、生きとし生きる命を愛し尊べ」と彫られています。

この理念のもと、人間とは何か、芸術とは何か、文明とは何か、人間と文明との関係はいかなるものか、という問いかけがなされています。それらの問いに正面から向き合いながら作品を創造し、研究論文を書き、藝術立国を建学の理念としつつ平和を希求する本学の活動に、多くの皆さんのご参加を待っています。参加した皆さんの成果は、ときに作品として保存され、ときに人びとの記憶に残り、あるいは製品として店先に並び、映像として保存されることになります。

人間の良心を基調とする芸術の創造をめざし、新たな文明の創造をめざしながら、活動をくり広げていただきたいと思いつつ、瓜生山のキャンパスでお待ちしています。

尾池 和夫
OIKE Kazuo
京都造形芸術大学 学長

1940年東京で生まれ高知で育った。1963年京都大学理学部地球物理学科卒業後、京都大学防災研究所助手、助教授を経て88年理学部教授。理学研究科長、副学長を歴任、2003年12月から2008年9月まで第24代京都大学総長、2009年から2013年まで国際高等研究所所長を勤めた。2008年から日本ジオパーク委員会委員長。2013年4月から京都造形芸術大学学長。著書に、『新版活動期に入った地震列島』(岩波科学ライブラリー)、『日本列島の巨大地震』(岩波科学ライブラリー)、『変動帯の文化』(京都大学学術出版会)、『日本のジオパーク』(ナカニシヤ出版)、『四季の地球科学』(岩波新書)、『俳景四』(マニュアルハウス)、『2038年南海トラフの巨大地震』(マニュアルハウス)などがある。