ラーメンの味と鑑賞のツボ

カテゴリー: 博物館学芸員資格課程(科目等履修)
私の前職は美術館の学芸員でした。で、美術館の現場で、最も多くお客さまから受けた質問が「美術を鑑賞するってどうやってするんですか?」。そのたびに私は答えたものです、「美術品の鑑賞は大好きなラーメンについて語ることと一緒です」と。

美術品とラーメンをごっちゃにするな!!

 と、そんなお叱りを受けてしまいそうですが、まあ、聞いてください。私は今もしばしば、美術館の展示室で「う~む」と唸りながら(いえいえ、ホントに唸ってはいないのですが、唸っていそうな難しい顔で)作品鑑賞をされている方をお見かけします。美術館の現場を離れてしまった今でこそ、そういう方に話しかけることはしませんが、館ではしばしば、さりげなく話しかけたものです。そういう時にもらった質問が、件の「美術鑑賞って??」という問い。
 どうも伺ってみると、何がしか深遠な(!)、哲学的な評論をしなきゃ「いけない」って思っていらっしゃるんですね。だから、たとえば絵画だったとしても「ここに描かれてる○○、おもろい!」なんて、口が裂けても言えない…。そりゃ苦しいですよ、つまんないでしょうよ。

じゃ、好きな食べ物は?

 とうかがってみましょう。するとほとんどどなたもお答えになれます。で、日本人のほとんどにとって親しみやすい食べ物―たとえばカレーとか、そうそう、ラーメンとか、ですよ―についてならば、そのモノについて、多くの人はアツく語れるわけです。
 冒頭の写真は、私の大好きな台湾ラーメン!太めの麺にカツオだし(か?)のお醤油ベースのスープ。麺の下には茹でたモヤシが潜んでいます。トッピングは辛い肉みそとニラ、そして糸唐辛子。麺が乳白色、スープとみそが赤~赤茶であるために、ニラの緑が鮮やかに映えます。基本的には立体的な盛り付けがなされ、中央に盛り上げて配した肉みその上に、さらに糸唐辛子が盛られます。う~ん、ゴージャス。
 …。さてこれが、「台湾ラーメン」という「作品」のディスクリプション。そしてその後が、「作品」に関する「評価」。学芸員の、あるいは美術史研究者の基本的な仕事です。曰く「肉みそとスープをミックスすることで、スープが深い味わいとなり、さらにその濃厚スープが太めの麺とからむことで絶妙なテイストになる」とか…。
 皆さんも、お好きなラーメンについて、あるいはお気に入りのカレーについて、はたまたたとえばいわゆる「粉モン」についてならば、難しい言葉など一つも使わずに、詳しく説明をすることができ、その歴史的な評価、あるいは同時代作品の中の位置づけ(!)についても語ることができるのではないでしょうか。

これが好き!

 ときちんと言えれば、美術史なんだ、と、かつて私の指導教授は言っておられました。ちょっと乱暴な略し方ですが、かくかくしかじかの理由があり、同時代の作家や作品に比べてこういう特徴があり、また歴史的にはこのような位置づけと言えるだろう…ってな、説明できる「好きな理由」が言えればよいのだと…(これもまた、まだまだ乱暴なまとめですけど)。
 知識がなくては鑑賞できない、というものでは決してないけれど、知識―これは書物などで得た知識だけでなく、鑑賞体験も含みます―が根底にあったら、もっと楽しく見ることができる。美術鑑賞とはそんなものではないかと、思っています。ほら、ラーメンもそうでしょう?「この店のラーメンは、○○に比べてスープのだしが○○で、麺も○○だよね」とか「先代の味に比べると、○○な点が変わったよね」とか。
 そしてその鑑賞をちょっとだけ助けるのがキャプション。お客さまがより楽しんで頂けるようなツボについて記すのが、学芸員という仕事の楽しみの一つです。

column writer profile
菅原真弓 (すがわら まゆみ)
通信教育部 博物館学芸員課程 主任
1999年、学習院大学大学院人文科学研究科哲学専攻博士後期課程単位修得退学。博士(哲学)。専門は日本美術史(日本近世近代絵画史)、博物館学。財団法人中山道広重美術館(岐阜県恵那市)学芸員を経て、現在、本学芸術学部准教授。