特別Web連載 つながる大学院 vol.01“作家になるための一歩”につながる

京都に来なければ、今の作品は生まれなかった。

静岡出身の私は、東京の予備校で1年間浪人時代を過ごした後、ここ京都造形芸術大学に入学しました。当時、関東から京都の美大に進む学生は珍しくて、まわりで関東弁を話すのは私くらいしかいませんでした。なぜ京都に惹かれたかというと、日本人なのに日本のことをあまり知らない自分たちの世代に疑問を感じていたからです。日本人として絵を描くとはどういうことか?西洋画の模倣ではなく、日本人として作り出せる作品はないか?そんなことを京都でじっくり考えたいと思ったのですね。学部時代は、バイクで京都中のお寺をまわりました。その中で出会ったのが、金屏風に描かれた狩野派や琳派の作品です。

今はお寺にも電気の照明がありますが、これが描かれた時代はロウソクの灯りと外からの自然光しかありませんでした。金という色は光の当たり方によって変化しますから、金屏風の絵はおそらく時間によって見え方が変わったはずです。だから、狩野派や琳派の作品というのは、現象とともに変化する絵なのです。

SPIRAL(transformation)2012 photo by Nobutada Omote courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

SPIRAL(transformation)2012
photo by Nobutada Omote
courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

私が今使っているのは偏光パールという真珠のような特殊な絵の具で、光が当たらないと色が全然出てきません。そして、見る位置によって見え方が変化します。「人」と「作品」と「現象」の関係性を考えるという私の作品のテーマは、京都に来なければ生まれていなかったでしょう。

「絵でご飯を食べる」強く思い続けた学生時代。

もうひとつ、私が学部時代から考え続けてきたことがあります。それは「絵でご飯を食べる」ということ。当時、美大生がそういう話をするのはタブー視されている雰囲気がありました。でも、自分はたとえまわりの学生と違ったとしても、1年生のときから「自営業者としての画家」をめざしてきました。すると、あらゆることに対して客観的になります。自分の作品がどうすれば社会に必要とされるのかを、ある意味冷めた眼で徹底して考えるようになります。

また、幸いにも、私には京都造形の先生たちの強力な後押しがありました。卒業制作の選抜展への推薦など、いろいろなチャンスを与えてもらったのです。東京藝術大学の大学院へ進んでからも、ずっと先生とのつながりがあり、多くの展覧会に参加させてもらいました。そして、大学院を修了した年、イギリスのフリーズ・アートフェアで、海外のコレクターの方に自分の作品を買ってもらえたのです。そこから、作家として一本立ちするのに1年とかかりませんでした。思い続けてきた通り、絵でごはんを食べていけるようになったのです。
自分の作品を買ってくれる人がいて、それで作家の生活や画廊の経営が成り立ち、経済がまわっていく。作家をめざす人も、そういう経済感覚を持つべきだと私は思います。京都という街で暮らしていると2m×5mの大作を自宅に飾る人がいるなんて想像できないかもしれませんが、実際に海外にはそういうコレクターがたくさんいるのです。

THE BATTLE STAGE 2012 photo by Nobutada Omote courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

SPIRAL(transformation)2012
photo by Nobutada Omote
courtesy of SCAI THE BATHHOUSE

手を動かす時間は、「労働」でしかない。

海外で作品が売れるようになると、ほとんど自宅兼アトリエに閉じこもり、多くの時間を「考える」ことに費やすようになりました。美術史を参照し、これまで巨匠たちが積み重ねてきた歴史を見つめ、自分が今絵を描く意味を徹底して考えてきました。たとえば、絵を描くには、キャンバスなどの支持体があり、油絵具や顔料といったマテリアルがあり、どう描くかという行為がある。その組み合わせの更新がアートの歴史をつくっています。それを全部一度解体して、どうすれば2013年という現在のリアリティに基づきながら、アートというOSをアップデートできるのか。そんなことをいつも考えています。
だから私の場合、エモーショナルで絵を描くということはまずありません。すべて綿密な計画と厳格なルールに基づいて作品を制作しています。極端な言い方をすれば、絵を描く前に設計図はすべてできあがっていて、手を動かしている時間は単なる「労働」でしかないのです。

大庭 大介

学生の皆さんにも、自分が日本人であることや、なぜ絵を描くのかという意味を徹底して考えて欲しいと思います。それを追求するためには、学部の4年間だけでは足りません。作家をめざすなら最低でも修士課程、もしできるなら博士課程まで進み、研究を深めるべきです。学部を出ただけで一人でやっていけるほど、この世界は甘くありません。
私のこの大学院での仕事は、皆さんと年齢の近い作家として、作家になるための最初の一歩を踏み出すために何をするべきか、リアリティをもって伝えていくことだと思っています。

大庭 大介(おおば だいすけ)

京都造形芸術大学准教授

1981年 静岡生まれ、画家、主に偏光パール絵具を用いて、「関係/場/絵画」をテーマに制作。
2005年 京都造形芸術大学美術・工芸学科洋画コース(総合造形)卒業
2007年 東京藝術大学大学院美術研究科油画研究領域修了
2013年「flowers~一斉に芽吹く春の花のように~」十和田市現代美術館(青森)、2013年「TRICK-DIMENSION」TOLOT(東京)、2012年「大庭大介個展、永劫の灰、是を辿り」SCAI THE BATHHOUSE(東京)、2011年「The Light Field」大和日英基(ロンドン)2012年「超群島 ライトオブサイエンス」青森県立美術館(青森)、2012年「Emotional Material」 3331arts chiyoda(東京)2012年「超群島HYPER ARCHIPELAGO展」EYE OF GYRE(東京)、2011年「堂島リバービエンナーレ2011」(大阪)他、個展、グループ展多数。

インデックス

大庭大介

vol.01“作家になるための一歩につながる”

大庭大介:准教授

齊治家

vol.02“大きなチャンスとつながる”

黄海寧:修士課程 芸術表現専攻

野路千晶

vol.03“自己の再確認につながる”

野路千晶:修士課程 芸術文化研究専攻

齊治家

vol.04“自分に合った指導者とつながる”

齊治家:修士課程 芸術表現専攻

竹内敦子

vol.05“悔しさの先につながる”

竹内敦子:修士課程 芸術表現専攻

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