粘土、樹脂

美術工芸学科　総合造形コース

粟坂　萌子【世界の中心まで掘ってまったもんで。】

生まれたての小さな塊から、年輪のように薄い層が積み重なって「今の私」がある。そんな塊から、自分自身の中心に近づく試みをした。そこにはわたしも知らないような、隠れた部分が顔を覗かせている。自身の中心に向かっていくことで出会える何か。

コメント

粟坂は制作に凄まじい勢力を傾けた。泣いて、悔しくて、なお諦めず、周囲の呆れ果てた顔色にもめげず、力の限りを尽くし続けた。だがそれが傑作の要因ではない。「意識を無くす」意識による身体の痕跡は、内が外になる。自己を探る思考は常にアンビバレンスで、それが反転する樹脂の造形に関連した。数々のハプニングは、すべて作品に取り込んだ。彼女の想定を超えた「痕跡」が、創作の根源は自己探索への覚悟だと語りかけてくる。

美術工芸学科　福本　双紅

3D形成物

プロダクトデザイン学科　プロダクトデザインコース

三島　章正【生物的静物－Biological still lifr－】

2035年の3Dプリント技術に対し、あるべき姿のひとつとして提案します。現在のプロダクトのあり方を「甲殻類」と考え、それに対し2035年には機能が形態を成す「植物的」な構造を提案しました。

コメント

昨今進化のスピードの速い3D Printerの将来を見据え、モノづくりの可能性として提案をまとめた。ラティス構造という3D Printerと相性の良い基本構造をベースに、繊細で美しい造形に加えて、躯体そのものが機能を持つという将来の可能性をバリエーションをもって提示、来るべき時代への期待感を高いデザイン性で見せた作品。造形の完成度、将来を感じさせるプロトタイプと、高次元でまとめたことは、近年の学科卒業制作の中でも今後の指標となり得る傑出した作品と言えるだろう。

プロダクトデザイン学科　風間　重之

絵本｜おりがみ

こども芸術学科　こども芸術コース

山下　菫【100%ORiGAMi 〜おる絵本・きる絵本・やぶる絵本〜】

保育実習を通して、遊びの素材として、おりがみを扱っている園は多いのに、おりがみを用いた遊びの幅って案外少ないんだなと感じた。“おりがみ”だけど、おるだけじゃない。大人も子どももこれが全ておりがみと分かった時に、ときめいてくれるといいな〜。

コメント

保育所や施設での実習を通した学びのなかで、「折り紙を使用した遊びの乏しさ」という疑問をいただいた作者は、自分らしい「工作」という手法でその研究制作に取り組んだ。単に折り紙を使用した絵本を生み出したということにとどまらず、これらの絵本からはじまるであろう親子や、子ども同士のコミュニケーションの豊かさが、それぞれのページに表現されている。人が好きで、人を想い、人に寄り添っていこうと生きてきた作者の想いが結実した作品であると言える。

こども芸術学科　彦坂　敏昭

論文

映画学科　映画製作コース

河村　凛【タルコフスキーの自律的映画】

多くの観客がタルコフスキー映画についてイコノロジー的な意味に頼ることなく絵画的だと感じる所以が、どこにあるのかという疑問から出発したこの研究は、彼の映画は眼差しによって《肖像》的になっているのだというひとつの結論を導くものとなった。

コメント

旧ソ連の映画作家アンドレイ・タルコスキーによって呈示される独自の「美学」については、さまざまな角度からの論考が存在し、読解が積み重ねられてきた。しかしそれらは、映画作家自身の意味深な発言もあいまって、神秘主義や象徴主義的解釈に陥りがちであり、そうした議論の罠を自覚し、そこからできる限り離れる立場から論文を構想しようとした点に筆者の独創性がある。新たなるタルコスキーの「肖像」が鮮やかに輪郭づけられる。

映画学科　北小路　隆志

計画案｜木材を原料とする材料（一部を除く）

環境デザイン学科　建築・インテリア・環境デザインコース

中山　賢司【川と人の風土史】

かつて道だった熊野川。しかしその風土は今失われつつある。古くから行われてきた木材を筏に組み、集落が協力し下流へ運ぶ産業構造。消えつつあるそこへ産業・観光施設を挿入し道としての川を取り戻す。集落同士、そして川とを再び繋ぐ事で風土を守っていく。

コメント

中山賢司は如才ない男だ。この卒業制作でもあらゆる部分に目配せがきいている。かねてからもつ熊野への熱い思いやＳＤＧｓへの接続を推進力にし、精緻なリサーチを足場にして、木材産業と（筏を使った）河川交通を復権させるシステム構築と具体的な施設の設計をとことんやりきった作品だ。神話から木組みの委曲まで、古代から遥か未来の地球まで、時空のスケールを横断して目配せに抜かりがない。ゲスト審査員の石川初先生からは修士制作レベルだとの声もいただいた超力作だ。

環境デザイン学科　小野　暁彦

家具、相欠き｜ラワン合板、ウレタン塗料

空間演出デザイン学科　空間デザインコース

齋藤 慧山【Middle Tech Furniture】

作るとはなにか。良いとはなにか。世界を覆うネットを介してどこでも誰でも物を作れる時代に、作ることの悦び、モノの良さを再確認する。

コメント

身の回りの生活道具はいくつかの生産方法によってできている。工場での大量生産、職人による手仕事、デジタルファブリケーション、DIYをはじめとするその他の方法、あるいはその組み合わせである。それらの生産物はコストや美しさ、機能面において一長一短である。齋藤は、それらの長所を橋渡しし、安価な合板を素材に材料をギリギリまで細くし、ディテールを粘り強く検討することで、一連のプロダクトを生み出した。齋藤が毎日材料を探してゴミ置場を漁っていた姿が忘れられない。

空間演出デザイン学科　家成 俊勝

ミクストメディア

情報デザイン学科　情報デザインコース

根之木　颯亮【柄の潮流】

文様には各々意味がある。広く続く海の波から『青海波』に「平穏」を願ったように。しかし、環境、流行、価値観の違う昔と今では、文様のもつ意味も変容するだろう。そこで、それら文様の意味を拾い上げ、現代の意味に置き換えて新たな文様として作り変える。

コメント

洋の東西を問わず、長く継承される文様にはそれぞれの文化を背景に意味や想いが込められている。そんな文様を今の時代に考案するとどのようなモチーフが用いられるのか？一見パロディと捉えられそうな作品だが、テキストを読むことでその本質は文様の成り立ちを真摯に考察し、オリジナルと対比させながら、時に揶揄を込めた表現と気付ける秀作である。グッズへ展開させることでよりメッセージも伝わってくる。今の若者にはよく知る文様に込められた意味を知るきっかけにもなるだろう。

情報デザイン学科　藤原　裕三

企画・演出・役者

舞台芸術学科　演技・演出コース

池田　明吹夏【鈍獣】

謎の失踪を遂げた小説家・凸川を追って、担当編集者の静は凸川の小説の元となった人物のもとへ。辿り着いたのは、田舎のさびれたホストクラブ「スーパーヘビー」。そこには、ハチャメチャな人物達が待っていた！

コメント

池田は、これまで一貫してコメディの演出を手掛けてきた。しかも、演出をしながら貪欲に主役級の役で出演もしてきた。池田は、戯曲から笑いのリズムとその奥に潜む人間性とを的確に読み取り舞台化することができる。さらには、個々の役者の魅力をうまく引き出し、役者と演じる役の個性とを見事に重ね合わせることができる。これらの演出力が最大限に生かされた「鈍獣」は、集大成に相応しい完成度の高い作品だった。

舞台芸術学科　平井　愛子

論文

アートプロデュース学科　アートプロデュースコース

森川　美里【地を這うバレリーナ ⏤バレエ史からみる『ジゼル』（マッツ・エック演出、1982年）の身体性⏤】

コメント

マッツ・エックが大胆に改訂したロマンティック・バレエの傑作『ジゼル』。本論は、本作をバレエの歴史に位置づけつつ、自らの身体感覚を活かして作品分析を行い、そこに旧来的な「彼方へと上昇する精神的な身体」から「地を這うような肉体的な身体」への変容を見出していく。知性と感性が織りなす〈パ・ド・ドゥ〉とでもいうべき筆致によって紡がれる本論は、観念的に飛躍することなく地に足のついた堅実な説得力を湛えている。

アートプロデュース学科　林田　新

小説

文芸表現学科　クリエイティブ・ライティングコース

勝部　結衣【背中のふた】

コメント

背中のニキビを治療するためと妄信して不毛なセックスに明け暮れる女が、レインコートフェチの奇妙な男と出会い、彼との関係を深めるうちに自らのルーツに立ち戻っていく。彼女はジャパゆきの母に育てられたハーフで蒸発した日本人の父はヤクザで、そこにスラムやイジメの問題も絡んできて……。本作は極めて業の深い描写が続くが、その奥にあるものは哀しくて愛おしい。故・立川談志は「人間を描くとは業の肯定である」と言った。

文芸表現学科　山田　隆道

オーガンジー、障子紙｜水彩ペン、スケッチペン、鉛筆

キャラクターデザイン学科　キャラクターデザインコース

本田　真子【Allure】

レコーディングによって体験をデザインするという研究テーマのもと、「京都とパリ」を題材に製作。京都はうつろう季節を表した絵巻。パリは地区ごとにスカーフとして制作した。また現物の写真・物を展示し、作品と比較して楽しんでもらおうと試みた。

コメント

旅は人生を豊かにさせるというが、出身地からひとり京都へやってきた彼女の4年間は毎日が旅であったのかもしれない。その土地の匂いを感じ、そこでたくさんの人と出会う。いろいろな感情に包まれ、たくさんの経験を積み重ねたことで作者自身の人生を豊かに彩る。軽やかな線によって描き出されたイラストはとても魅力的で見る人の心を惹きつける。この作品の魅力は作者自身の魅力とイコールであることが断言できる。

キャラクターデザイン学科　太木　裕子

論文

歴史遺産学科　文化財保存修復・歴史文化コース

森野　美桜【アメリカ先住民ラコタのアイデンティティの保持について】

コメント

この論文を貫くものは、マイノリティーの未来に対するまなざしである。彼女はアメリカ旅行で訪ねたインディアン保留地の実情に衝撃を受け、彼らの未来を占うものとしてアイディンティティ維持のシステムに着目する。サウスダコタ州ラコタ族保留地でフィールド調査を行い、彼らの厳しい現実を抉り出すとともに、言葉・儀式の継承システムや部族芸術に未来への手がかりを見出す。労作である。高く評価したい。

歴史遺産学科　杉本　宏

マンガ｜A5・210ページ

マンガ学科　ストーリーマンガコース

石原 京香【12月13日】

漫画家としてデビューした日。半年間で雑誌掲載をした4作品を収録しました。

コメント

本作は合計４本の読み切り少女漫画の作品集、テーマはすべて恋愛です。いつの時代でも普遍的といえるこのテーマはすでに先人達の手によって描き尽くされた物であると言っても過言ではありません。しかしこの作品群のひとつひとつは新鮮で、作者の感性が目一杯詰まった恋愛模様がそこにあります。これはすでにプロとして活躍している作者の実力を裏付けるものであり、笑ってほっこりの、甘酸っぱい青春ドラマです。

マンガ学科　細井　雄二