主人公の名前や彼に関する情報を鵜呑みにする限り、これは「私小説」であり、そうした物語はしばしばナルシシズムや自己憐憫に陥る。本作の素晴らしさは、主人公や登場人物に対する絶妙な「距離感」によって、そうした罠が見事に回避され、独特なユーモアやクールさを生み出す点にある。なぜ人は意欲的になればなるほど、半端な「重さ」に走りがちなのか? そんな書き手たちを嘲笑い、挑発するかのような「軽やかさ」が爽快で、筆者主演よる本作の映画化を待望する。北小路 隆志