学長賞
文芸表現学科 クリエイティブ・ライティングコース

野々口 西夏 【清めの銀橋】

コメント

 終盤、強烈に好きな一文がある。貧困家庭で育った女子高生が、宝塚歌劇との出会いによって急転した紆余曲折の日々について、「あの運命の日から私は悩み苦しんで、結果的に浪費癖のある風俗嬢になった」とドライに述懐するところだ。悲嘆でもなく陶酔でもなく、まるでたったそれだけのことだと自らを突き放すかのような、シビアで客観的な現実主義を貫いているのだ。  作者は煌びやかな宝塚で貧困少女が活躍するなどという定型のドラマを生み出さなかった。現実にはそんなドラマなど存在しないことをわかっているのだ。宝塚大橋から見える大劇場、その間を断絶するかのように横切る赤茶色の阪急電車。すべての現実から立ち上がってくるのは、性風俗すらも堕ちたのではなく勝ち取ったのだと言わんばかりの、自立した少女のたくましさだ。山田 隆道

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