作者は2011年3月の震災を秋田で経験した。その後、「サバイバーズ・ギルト」の問題に関心を寄せ、心理学を学ぼうともしたというが、映画学科に在籍した最後の年に、こうして長年の懸案を小説へと鮮やかに昇華させてみせた。多くのひとの胸に届くであろう「読みやすさ」が魅力の小説だが、これは自伝ではない。読まれつつある小説が、同時にそれが書かれるに至ったプロセスとも重なる、そんなフィクションの知略めいた側面も注目に値する。
北小路 隆志