洋画コース

喜寿で入学。人生初の油絵にふれ大学院進学も

「まだまだ、やりたいことがある。自分には可能性がある。そう感じさせてくれた大学生活でした」。描きかけの新作を前に、穏やかながらも力強く語る河野さんは89歳。洋画コースに入学したのは、77歳のときだった。「昔から絵だけは得意。夜間の高校に通いながら新聞配達をしていたとき、配達先のアトリエに寄るだけで胸が高鳴りました」。どんなに望んでも、当時は叶わなかった芸術への道、大学への進学。孫が大学に進むのを見て、自分も今度こそ、と周囲に頭を下げたのだという。「せっかく夢をかなえるのだから、憧れの京都で、人生初の油絵を学んでみたいと思ったんです」。

かくしてはじまった、60年ごしの芸大生活。慣れない画材やパソコン、突然はじまった妻の介護など、さまざまな困難を上回る喜びがそこにあった。「先生の一言一言が、ぐんぐん自分のなかに吸収されていくようで。他の絵画スクールでは得られなかった感覚です」。専攻する油彩はもちろん、他の制作も一般教養も、見ること、聞くこと、学ぶことすべてが新鮮でおもしろい。「いろんな同期の作品を見るたびに、”こういう表現、画材もあるのか“と自分のチャレンジ心がふくらむんです」。

さらなる向上を求め、84歳で卒業すると同時に、大学院進学を果たした河野さん。「師をもライバルとする」作家性の高い学びに刺激され、独自の画材や画風に挑戦。50号を4枚連結した200号の修了作品を完成させた。「在学中、足の痛みで歩けなくなった時期も。けれど、それを乗り越えることで、新たな意欲を得られました」。ひとに感動を与えるような絵が描けたら、どんなにいいだろう。いまの自分にはまだまだでも、挑みながら描きつづけることが何より楽しい。「やりたいことができる。それだけで、本当にいい世の中だと思うから」。微笑みながら「最期まで筆を持って」とキャンバスに向かう河野さん。制作への深い喜びが、その絵に魂を与えている。

卒業生インタビュー

河野 博

洋画コース 17年度卒業
通信制大学院洋画分野 19年度修了

京都府在住 89歳

YouTubeで卒業生インタビューを配信中