芸術学コース
松田さんを本コースへと誘った、その男性の名は関根正二。いまから100年前に夭折した洋画家である。「いつか芸術を本格的に学びたい」という長年の希望と、この作家との出会いに背中を押され、本学の扉を開いた。「親も高齢になるので、やりたいことをできるうちに、という気持ちもありました」。
絵の好きな父に手を引かれ、美術館に通いはじめたのは幼稚園の頃。それなりに詳しいつもりでいたが、入学して、自分よりずっと若い先生方の知識に圧倒された。「どれだけ数多くの作品を見ようと、それぞれを個別に捉えていては、理解したとは言えないんですね。時代の傾向や文化、政治など、すべてがつながって、ひとつの作品が生まれるのだと教わりました」。さらに、写真やデッサンなどの実技科目にも挑戦。「制作系の学生さんとも知り合えて、作り手の気持ちに少し近づけた気がします」。孤独だと思っていた通信教育で、驚くほど豊かに広がっていった人の輪。ちょっとした学習の相談から芸術論まで、世代を超えて熱く語り合える学友との出会いは、他では得られない貴重なものだったという。
多くの人や学びにふれ、見る絵のジャンルも広がり、それでも松田さんに心変わりはなかった。関根についての数少ない文献を何度も読み返し、どこの店に通っていたかまで調べ尽くす。「まるで恋する乙女、いやストーカーだね、なんて学友にからかわれました」。その甲斐あって、図録の小さな写真から、持論の裏付けとなる証拠を発見。「頑張る人には、いつかそういうご褒美が降ってくるものです」と、偶然をつかんだ粘り強い努力を、先生に讃えられた。
「いまは大学院で、関根を直接知る人の資料を集めて整理を試みています。記憶や記録が失われてしまう前に、なんとか後世に残したくて」。貴方を忘れない。忘れさせない。松田さんの情熱は、短すぎた画家の生き様を、末長く人々の心に刻みつけていく。
松田 佳子
神奈川県在住 56歳
芸術学コース
(3年次編入学)
18年度卒業
卒業したいまも、学友たちとメールやSNSで近況を伝えあい、飲み会などを開催。「気に入った展覧会や作家について、夢中で話し込んでいると、青春時代に戻ったようです」。