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  • 羽鳥 朋恵
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 「人はつねに愛するものについて語り損なう」というロラン・バルトの言葉が、いつも頭の中にありました。研究テーマを決めるとき、私が愛したものを私の言葉で語ってみたいと思いました。研究に着手してからは、言葉を探し続ける日々でした。この研究論文は、橘小夢という画家について語った、私の拙い作品です。2万字で語れることはわずかでしたが、とても楽しく幸せな時間でありました。
 …… 橘小夢は、大正から昭和中期にかけて活躍した日本画家である。伝奇的な説話や幻想的な物語から取材した作品を制作し、「優奇世絵」と称した。物語に潜む魔性を耽美的に表現したその画風は、死と官能が交錯する妖美に溢れ、当時としては特異なものであったといわれる。小夢は、人間の情念、宿命と祈り、死と裏腹にある生を、愛する物語の中に見出し、高い技術と豊かな才能で表現した。小夢式ともいえる美人画では、怖さを感じるほどの御し難い情念を滾らせる女を描きながらも、その姿態に醜悪さや憐憫などは微塵もない。まるで女たちの思念を慈しむような小夢の情意が感受され、優奇世絵には妖しくも甘美な情調が溢れる。

芸術学科 - 芸術学コース

羽鳥 朋恵

東京都

橘小夢研究
-美術史的背景の再検討と優奇世絵の特異性から導く新しい小夢像-

  • 京都芸術大学 通信教育部