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環境デザイン領域 - 日本庭園分野

今井 雄一

八海山自然庭園

私は35年前から日本庭園をつくり続けて今日に至る。分業制が主流の現代の庭づくりにおいて私は施主、設計者兼施工者として三位一体の作庭スタイルで全プロセスに責任を持つ立場である。
一方、海外で講演をし、日本庭園に興味を持つ人たちの多さと関心の高さに驚くとともに不本意な戦争出兵で心身共に傷ついた帰還者が日本庭園によって癒され、立ち直ることができたとの述懐から日本庭園の癒し効果に着目し評価している。
これらの背景を受けて、本研究では35年間の作庭を検証し、意義と課題を見出すことと、身近な自然すなわち渓流、原生林を訪れ、自然を師匠、手本として感じたままを作品に反映させて風土に根差したいやしの日本庭園をつくることを目的としている。
「自然は師匠、自然は手本」のコンセプトに基づき制作した作品を石、水、みどりの素材別にピックアップした。
まずは、その名の通り上へ行くほど急になり武者をも返すという武者返しの構造石垣である。手本と作品を対比すべくセットで載せた。
次に、上空が枝葉で覆われ、夏でも涼しい水無渓流支流をモデルに制作し、次に、五十沢川本線上流を手本として、大盤の石を用いて荒々しい自然を表現した渓流作品2作である。両者は別水系の支流と本流で石の材質、色、形、流の勾配、周りの植生、水量、推進、源流からの距離等がみな異なる。上下左右の写真で自然と庭園を比較できるようにした。「池や流れを見ると自然の風景が心に浮かんでくる。」ことをめざした。
川端康成の小説『雪国』にも描写されているように谷川連峰の聳える壁が冬期間、日本海側に雪をもたらし、夏は植物種の往来をも妨げることで、魚沼のユニークな植生と景観をつくり出すことが分かった。木々は雪圧で根元が湾曲し樹形もユニークだ。木の求めに従って植えるべく、身近なブナ原生林に入り、自然を観察し、実生からそこに育った如くブナやモミジを植えた。
この研究で、作庭35年を検証し、その意義と課題を見出せた。「いやし」については、気候が植生をつくり、植生が人々の原風景に影響を与え、原風景が人の癒しに強く影響していることが分かった。実作の過程で、それまで見過ごしていたいやしの渓流や落葉後のブナ林で「散り際の美学」とばかりに輝く根曲がりモミジの株立ち群を発見し、感動した。ふるさと南魚沼の身近な自然を体感して、風土に根差した日本庭園の作庭スタイルを確立できた。

  • 京都芸術大学 通信教育部