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環境デザイン領域 - 日本庭園分野

能戸 美由

札幌市の個人邸作庭計画〜庭舞台としての場面転換〜

個人邸庭は作庭者があらゆる工夫と想いを込めることができる場である。そして個人邸庭つまり家庭の庭は、作庭者が自己満足だけの表現を超えた社会と接点を持つ作品を残すことができる場であると考えている。

「舞台」とは「①諸種の芸能(舞踊・演劇・音楽など)を演じて人々に見せるために特別に設けた場所。通例は観客・聴衆の場所よりも一段高くなっている。②1で演じる芸能、またその演技。③比喩的に、技量や活躍ぶりをみせる場所や機会。」『広辞苑第七版』(2018)
家庭の庭は諸種の芸能を演じて人々に見せるような特別な場所ではない。しかし、家族と家に訪れる来客者は庭を鑑賞し、庭を遊び場や作業場所として使い、庭の果実を楽しみ、そういった生活の中で庭は特別な場所となる。家庭の庭と舞台の共通点は、人の鑑賞と利用という目的、二面性があることであると考えている。

本制作では、札幌市の個人邸庭を対象地として作庭計画を立てる。副題「庭舞台としての場面転換」とは作庭によって個人邸庭の姿を変え、場面を生み出すことである。自然的変化かつ時間的変化とともに、庭は作庭を通じて場面は転換していく。
作庭計画では築山と七竈の木を植える。築山による地形の起伏によって庭の借景にあったかもしれない手稲山、施主ご家族の昔見ていた山々を再現する。芝の築山にすることで築山の上を移動することができる。七竈の木は北海道では街路樹や庭木としてよく見かけられるが、庭の鑑賞者と利用者は七竈の木を見て、花、実、紅葉と四季の変化を楽しむことができる。
本制作において2022年度作庭計画を立てる以前、2020年から2021年にかけて制作対象地にて一度目の作庭および実地制作を行い、課題点を見つけた。制作対象地の庭に工作物を配置する際、北海道札幌市の気候的特徴を考え、強風や背丈以上の大雪が積もることを踏まえた工作物を製作する必要があった。また、庭の工作物は配置する意味や理由が求められる。作庭者が人の利用を考えるとき、工作物がただの置物となっては人の利用の妨げになり、庭にオブジェを配置することができない。利用、維持管理を考えない家庭の庭は成立しないことが考察できた。

舞台美術に魅了され、仮想空間を見せるという表現を庭で実現できないかという想いから作庭を学び始めた。人を感動させる作庭のためには、細部に込めた想いと技の鍛錬が必要不可欠となる。

庭の現況

2020年〜2021年の作庭および実地制作

作庭計画スケッチ 場面をつくる

作庭計画 冬の図

  • 京都芸術大学 通信教育部