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  • 小川雅美
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 私は幼い頃を台湾や香港で過ごし、大学で中国語を学び中国で働いた。2021年10月に帰国し驚いたのは、日本に広がる強烈な嫌中感である。国家体制の違い、拡大する中国経済、世界を巻き込むサプライチェーン、確かに隣国は強大だ。しかし、おおらかで愉快な中国の友人たち、雄大で厳しい自然、多民族が入り混じる悠久の歴史と華麗な文化、私が暮らした中国は魅力的だ。中国の奥深さ、ダイナミックさ、面白さを伝えるテーマとして、景徳鎮の壺を選んだ。
 帰国前の中秋節に景徳鎮を旅行した。暑い南国で食べ物は辛く、街全体が緑豊かな公園のようだった。夕暮れに官窯跡の博物館で冷たいお茶をいただきながら休憩したが、そこで見た白抜きの龍の青花(染付)壺を思いがけず帰国後に大阪の美術館で再び見ることとなる。本作品ではこの出会いをきっかけに壺の来歴を探っていく。
 来歴を探る過程では次から次に重要人物が現れた。明の永楽帝、鄭和、清朝の恭親王・粛親王、コレクターのサー・パーシヴァル、仇炎之、安宅英一、美術商の山中商会。一つの壺から見えてくる600年の歴史の断片やその中に現れる日本の存在を描き、興味の尽きない中国の面白さを伝える。

芸術学科 - アートライティングコース

小川雅美

大阪府

景徳鎮の壺のものがたり ー《青花龍波濤文扁壺》ー

  • 京都芸術大学 通信教育部