
機械化による大量生産、大量消費が当たり前になった現代。 和式から洋式へと生活様式が大きく変化した今、日本の伝統工芸には“容赦ない逆風”が吹いています。 各地で培われた手仕事は、その需要が激減し、その存続が危ぶまれています。 私が暮らす福井県も同様で、地元に1500年続くとされる越前和紙は、その生産量がピーク時の1/3にまで激減し、高齢化・後継者不足による廃業など、時代のうねりに直面しています。 「このまま産地の技術や文化が失われ、衰退していくのを黙って見ていたくない」 漠然と沸き起こる想いを胸に、どうすると良いのかも分からず、産地に通い始めたのは今から1年ほど前のことです。すると、この1年間で私が目した産地の姿は、予想とは全く違うものでした。 越前和紙の産地では、伝統を守りながらも、時代の変化に適応しようと新しいチャレンジが試みられていて、職人は丁寧にひたむきに前を向く方たちばかりでした。そして、そんな産地の姿はとても力強くて美しいものでした。何よりも、職人の手から生まれる和紙たちが、美しくて素晴らしくて、越前和紙の産地が技術の宝庫であることを知りました。 「統計上は“斜陽”しているのかもしれないけれど、産地の技術や精神は少しも“斜陽”していない。 むしろ、“上昇”している。」 このことに気が付いてから、卒業制作で何をすべきか、進むべき道がハッキリ見えました。 1500年の歴史を誇る越前和紙は、時代のニーズに適用しながら、多種多様な和紙が漉けることが特徴です。産地が守り繋いだ技術や精神は、これから100年後、200年後...1000年後もきっと“続いて”いくことでしょう。 この卒業制作では、 「越前和紙・未来プロジェクト 『つづく』 」と題して、越前和紙の美しさや素晴らしさを伝えるプロダクトの提案や魅力発信活動に取組みます。
デザイン科 - 空間演出デザインコース
小形 真希
タイトル : 越前和紙・未来プロジェクト つづく

和紙と暮らして1500年。 産地と越前和紙 越前和紙の産地は「五箇(ごか)地区」と呼ばれており、その名の通り5つの地区(大滝、岩本、不老、新在家、定友)に和紙業者が軒を連ねています。山間の小さな集落ですが、そこには1500年間、高い技術をもった職人が暮らしてきました。 古代から高品質だった越前和紙は、奈良時代には仏教の写経につかわれ、平安時代には女流作家の文学に、武家社会では公用の奉書として愛用されました。江戸時代の福井藩札や明治時代の紙幣など、お札のはじまりにも大きく貢献。現在のお札にも使われている透かし技術は、もともと越前和紙に伝わる技法が採用されています。また美術工芸紙としても有名で、なめらかで丈夫なことから、浮世絵などの版画や絵画にも重宝されました。近代ではオランダの画家レンブラントや日本画家の横山大観、平山郁夫も越前和紙をこよなく愛しました。

「つづく」プロジェクト 越前和紙の魅力や素晴らしさを知ってもらうためのアクション一覧。 「認知」「興味」「比較・検討」の部分を当該卒業制作で取組みます。

“赤ちゃん誕生の瞬間”をカタチに残す記念品を、「越前和紙のレターセット」という切り口で開発しました。生まれたばかりの赤ちゃんの手型や足型を、越前和紙を代表する技法「透かし」を使って表現しました。

協力工房「栁瀨良三製紙所」の職人さん。足型を型取った透かしの版です。

製作当日は足型をとった赤ちゃんとご両親にも来てもらいました。 目の前で職人がレターセットを漉く様子に、赤ちゃんのご両親はとても感動されていました。

越前和紙の最大の特徴は、多種多様な種類の和紙が漉けること。 『Joybrella(ジョイブレラ)』は、「透かし」や「漉き出し」、「流し込み」や「ひっかけ」など、越前和紙を代表する技法が取り入れた和紙で作った日傘です。

和紙に施されている技法によって、太陽の光を通してしまうこの日傘は、“日光を防ぐ”というより、“透ける光を楽しむ”がコンセプトです。そのため、作品名は『Joybrella』としました。

越前和紙の産地がある福井県は、県内に約40の酒蔵が存在する酒どころ。 『Happy bag』は、普段は包装紙や襖紙として使われる越前和紙を、地酒の贈答袋として活用できないか挑戦した作品です。

越前和紙を使ったスマホケース。越前和紙を代表する技法「透かし」を活かして、スマートフォンの着信時に光る現象を、「透かし」を通して知らせるケースです。たくさん吉報を知らせられるようにと、作品名は『Good news』としました。

卒業制作を通して、産地に通ったこの1年間。 産地には数えきれないほど素晴らしい技術と精神が根付いていることに気が付きました。 統計調査上は“斜陽”が進んでいるのかもしれませんが、 現場の最前線にいる職人さんたちは、時代の変化に適応しながら、 懸命に越前和紙の存続のために戦っていて、“勢い”すら感じました。 凛と前を向く産地の姿があまりに美しくて、何度涙がこぼれたか分かりません。 学生である私のチャレンジを、あたたかく力強く応援してくださった越前和紙の産地の方々に感謝の気持ちでいっぱいです。 懸命に越前和紙の未来を見据えた産地の方たちとの交流を通して、 越前和紙の未来は「明るい」と感じました。 越前和紙のアーツアンドクラフツ運動は、これがスタートです。 私は私にできることを通して、越前和紙の魅力発信を続けていきたいと思います。 卒業制作を通して、4つのプロダクトにチャレンジできたことに感謝します。