
デザイン科 - 情報デザインコース
長野 佐知子
エルの庭 ー亡き人ともう一度繋がりを結びなすー
大切な人を亡くしました
18年前の丁度今頃
桜が満開の日の午後でした。
呼んでも、泣いても、叫んでも帰ってこなくなった人。
長い間、その人と過ごす明日は未来永劫やって来ないという事実に苦しんで
人生が茫漠と広がった焼け野原のように思えました。
でもある日、その人と過ごした日々を思い返し
亡き人がいかに私に希望を与えてくれていたか
それを思い出しました。
そして、失望に沈んだままの自分は
その人が与えてくれたものを
枯らしてしまっているとも気づきました。
その人が望んでいるのは
たとえ、その人がいなくても嬉々として
自分の人生を生きていること。
そこからが、すべてのスタートでした。
亡き人が自分の中に残してくれたものを拾い集め
生きる力に育てようと決めました。
つきなみな言葉ですが
今も亡き人と繋がっているそれが今の私の力です。
本作は、そんな自分の経験をもとに
「亡き人ともう一度繋がりを結びなおす」
ということをテーマに制作しました。
作品は「育ての親の末期を看取る少年の目線の物語」と
「病に蝕まれていく主人公エルの目線の日記」で構成されています。
二人が思い出を紡いできた庭を中心に物語は展開していきます。
そして、亡くなったエルが育て採集した種子が少年には残されます。
こうした物語に触れ、改めて離別を内観することで
自分の悲しみや痛みに向き合うと共に
亡くなった人が自分の中に残していった
「種子」のようにこれから花開く「何か」を見つける。
そして、そのことが自分の心の中に亡き人との繋がりをもう一度つくる
きっかけになるのではないかと思うのです。
でも、正直なところ
本作が誰かの喪失の痛みを請け負えるなどと思ってはいません。
亡き人を思い悲嘆にくれる時間が無駄だとも思っていません。
でも、もしかしたら、ひょっとすると
誰かの、何かの光になるのではないかと思い制作しました。