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2024年度
卒業・修了制作展に寄せて
通信教育課程をご卒業の皆さま、大学院修士課程修了の皆さま、おめでとうございます。
今年も京都の瓜生山キャンパスで、卒業・修了制作展が開催できることをとてもうれしく思っています。
今年、卒業する皆さんが本学に入学した頃は、コロナ禍の行方がどうなるのか予想がつかず、日本中に不安な思いが拡がっていた時期でした。数年間にわたる不透明な状況の中で、作品制作、フィールドワークなどそれぞれの課題に取り組みながら、所定の授業科目を受講し、たくさんのレポート課題の締め切りを乗り越え、論文を執筆し、「卒業」、「修了」という目標を達成された皆さんに、こころからお祝いのことばをお送りしたいと思います。卒業までの道のりには、介護や子育て、ご自身の体調不良や企業務めの激務など、多くのハードルがあったことと想像します。本当によく頑張って、今日の日を迎えられました。
1998年、徳山詳直初代理事長の強い思いで本学の通信教育部がスタートしたとき、通信教育で芸術教育を行うことに、多くの教員が大反対で、教授会が紛糾したと聞いています。それから四半世紀、本学の通信教育で学ぶ学生数は17,000名を超え、日本で最大規模の通信教育部を有する芸術大学に成長しました。日本各地から、そして世界の各地から、本学の通信教育に関心を寄せ、入学を検討している人たちも年々数を増しています。
本年、卒業される皆さんは、これからはさまざまな機会に皆さんの先輩にあたる本学通信教育部の卒業生に出会うことがあると思います。そのときにはぜひ、皆さんの卒業までの苦労話や芸術談義、アート談義に花を咲かせてください。そして、もっと芸術を学んでみたい、という気持ちになったときには、ぜひまた本学にもどってきてください。芸術学舎にも多種多彩な講座が開講されています。
通信教育部の先生たちと皆さんとのつながりは、卒業後も切れることはありません。卒業生・修了生全国公募展、airUコミュニティ、通学課程と連携した同窓会など、本学のさまざまな「繋がるしくみ」を活用し、卒業後も芸術の学びを継続してください。
皆さんが本学で学んだこと、身につけたことを糧に、今後もご自身の目標に向かって充実した人生を歩み続けてゆかれることを願っています。
春爛漫
まずはご卒業、ご修了をされるみなさん、まことにおめでとうございます。ご家族、ご友人の方々にも心から祝福の気持ちをお伝えしたいと思います。
大学生活のなかで、お仕事や育児、介護など日々の生活とのバランスを図りつつ、こうして卒業・修了制作、卒業研究・学位論文をかたちにされたみなさんの挑戦と努力は、何ものにも変えがたい経験であり、財産であると思います。
「芸術は解毒剤である」とは、解剖学者であり『バカの壁』の著者としても知られる、養老孟司さんの言葉です(養老孟司『遺言』新潮社、2017年)。養老さんは、現代社会における「同じ」という意識、すなわち言葉やお金、そして民主主義といった社会規範を含めて、人々が互いに「同じ」意識(意味)を共有していることで、人間社会は成立していると説きます。他方、動物の世界は、「感覚所与」、いわば「直感」を優先して生きているのであり、だから言葉(意味)がなくとも問題ないのだとします。
ここで養老さんが問いたいことは、「意識」を追求しすぎる現代社会のあり方にあります。「同じ」ことを良しとしすぎるあまり、極端な平等や同質性の追求となっていないか、警鐘を鳴らしているといえるでしょう。対して、藝術には決して同じものがありません。模写であっても、そのオリジナリティーは発露します。世界に一つの作品(研究)を自ら作り、世に問うという行為は、「同じ」という意識の問題点を改めて顕在化し、理解を深める行動と言えます。不確実性の時代のなかで、多様な存在と世界を理解することが求められています。本学の理念である「藝術立国」の目的もまた、そこにあると言えるでしょう。卒業、修了生のみなさんは、まさにその藝術の学びを習得され、その成果が、今回の卒業・修了制作展のすべての作品、研究には詰まっています。
卒業・修了制作展へご来場いただいた皆さん。我々通信教育課程の誇るこの素晴らしい成果を存分に堪能してください!
そしてご卒業、ご修了される皆さん。健康に留意されて、これからの人生をさらに実り豊かなものとされますように祈念いたしております。
つややかな宴
今年も卒業・修了制作展の時期となりました。つやつや、ぴかぴかの新作ぞろいです。作家たちも、ぴかぴかつやつやの新品です。卒業・修了までにそれぞれかけた時間はまちまちでしょう。新酒の生硬さというより、熟成された古酒に近い作品もあるでしょう。しかしみなさんひとしく今生まれたての新人作家です。一堂に会した、熟れたて、採れたて、搾りたての作品を堪能できる絶好のチャンスです。
そのむかし西洋では、展覧会の開催前日に、画家が招待客の前で自分の絵に仕上げのニスを塗ってみせていました。最後の一筆を入れ、出来立てほやほやの絵をご覧に入れよう、というパフォーマンスです。ヴェルニッサージュ(ニスを塗ること)というフランス語が内覧会を指すのはそこから来ています。ターナーは仕上げにニスどころか赤い斑点を画面に加えるなど、あれこれ手を入れるので有名でした。そうしたターナーの振舞いが注目されたのも、展覧会には今まさに生まれつつある作品の場という性格があるからでしょう。そしてとりわけ卒業制作展はそうした同時進行的な性格を強く持っています。それは作品の仕上げというだけでなく、芸術家の仕上げでもあって、作品と同時に作家の誕生にも立ち会える場となっているからです。
もちろん、卒業制作展で展示された作品に会場で手を加えることは反則です。しかし、たとえいま展示されている作品がひとまず完成されたものだとしても、それはこれからの作家のさらなる仕上がりを予見させるものでもあります。展示された作品にニスを塗らないまでも、作家たちそれぞれがみずからさらに光沢を加え、磨きをかける機会がこれから次々にやってくるでしょう。そのさらなる仕上げのひと塗りは将来にとっておくとしても、今年は今年で卒業・修了制作が仕上がりました。
さあ、その成果のつややかさを存分に楽しみつつ、新人のみなさんの前途をことほぎましょう!