01 大学院に進んだ理由
解決されるべき社会問題を見つけ、
世の中に問いかけたい。
私は、台湾の大学で芸術理論を専攻していました。大学在学中に、学生自治会の会長として、学生運動を経験したことなどをきっかけに、政治的・社会的な問題に対する興味が膨らみ、芸術の研究だけでなく教育問題などの評論も書くようになりました。大学を卒業して、一度は就職して社会に出たものの、「もっと勉強したい」という気持ちが募っていきました。解決されるべき社会問題を自分で見つけて、世の中に問いかけていきたい。京都という、豊かな文化をもつ街で学んでみたい。そう考えて、大学院への進学を決意しました。京都芸術大学の大学院には、「芸術」を根幹に「社会学」や「政治学」など、自分が関心をもつテーマへと自由に研究を広げていける環境があります。同じ領域に「ゴジラ」を修士論文の題材にする人もいたりと、予想以上の幅広さに驚いたことを覚えています。
02 大学院での学び
フィールドワークで声を集め、
芸術祭を、
地域住民の視点で紐解く。
大学院でいろいろな価値観や考え方にふれる中で、「地方創生」というテーマに出会い、日本各地で行われている「芸術祭」の在り方に関心を抱くようになりました。「地方創生」とは本来、現在あるものを活用して、地域を元気にすることだと考えます。しかし、芸術祭のために多額の資金を投じて山の奥に新しい建物がつくられ、会期が終わると誰も使わない建物だけが残ってしまうという問題も生まれています。私は、かつてボランティアスタッフとして参加したこともある「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」を修士論文の題材として選定。「大地の芸術祭」が本当の意味で「地方創生」といえるのか?地域の方々にアンケートやヒアリングのご協力をお願いし、生の声を集めていきました。その結果、地域の皆さんは、芸術祭によって生まれる「人と人の交流」を前向きに捉えているという良い面も見えてきました。
03 現在の活動
台湾で、
仕事場兼スタジオをスタート。
人と人をつなぎ、
行動しながら地方創生と向き合う。
日本で学んだことで、私の視野は大きく広がりました。台湾に帰国した今は、その経験を活かして台湾文化についての考察を記事にしたり、日本語や日本文化について伝える講師を務めたり、フリーランスとして様々な仕事のご依頼をいただいています。最近は、台北の郊外に自分の仕事場を構え、その空間を、人と人をつなぐスタジオとしても活用しています。台湾在住の日本人と台湾人を結ぶ交流会を開いたり、台湾で社会問題となっている「ホームレス数の増加」や「葬儀の風習」をテーマにセミナーをしたり、自分から発信を行うことで、「地方創生」を研究で終わらせず、実践へと結びつけていきたいと考えています。大学院の頃から、文献研究だけでなくフィールドワークによって人と人とのつながりを通して物を考え、動いてきたことが、今の活動につながっていると感じています。
04 大学院の特徴・メッセージ
今見えているものが、
全部じゃない。
向学心が、
次の興味を呼んでくれる。
もともと私は、大学院に入るまで「地方創生」に関する知識がなく、授業や、先生との対話を通して興味をもちました。いま、見えているものは、決して全てではありません。大学院で研究や制作に取り組むプロセスは、新しいことに出会える可能性に満ちていると思います。私は、台湾の大学を卒業した後、一度は企業に就職しました。でも、「もう少し勉強したい」「自分の能力を磨きたい」という想いが強くなり、この大学院へ進むことを決意しました。皆さんの中にも、「勉強したい」という前向きな気持ちが、少しでもあるなら、その想いを行動に移してください。きっと、新しい興味に出会えるはずです。
ヤン・ヤチュ
文化デザイン・芸術教育領域(旧:芸術文化領域) 2019年度修了
台湾出身。大学では芸術理論を専攻。台湾で就職して社会人を経験したのち、関心のある社会学と芸術を深く学ぶために本学へ。「大地の芸術祭」をテーマに修士論文を執筆。卒業後は、台湾に帰国し、フリーランスとして活躍。雑誌やWEBなどの記事の執筆や、日本語講師など多彩な仕事を手がける。さらに、大学院からの研究テーマである「地方創生」を実践するため、事務所兼スタジオでイベントや講演会も積極的に行っている。
文化デザイン・芸術教育領域
CULTURAL DESIGN
AND ART EDUCATION FIELD
地域の個性を活かした文化をデザインし、人や社会の成長を支援する
本学では創立以来、芸術を、ただ個人の表現や贅沢な商品としてだけ考えるのではなく、人間の福祉や生きがい、また地域での調和ある生活環境を作るものとして探究してきました。本領域はその中心的な研究関心を担っています。
とりわけ、芸術教育や地域文化デザインに関わる修了生たちは、「芸術教育士」※として、各地でアートを通じて、ひと、モノ、地域を育てる仕事に携わっています。またメディアコンテンツ研究、超域制作学プログラムの修了生も、単に文化芸術の研究者や美術作家となるだけではなく、各自のフィールドでのアートプロジェクトや研究の実践を通じて、地域の文化やコミュニティの成熟をサポートする人材となってもらうことを期待しています。