危機に瀕した
“戦争遺産”を次世代へ。
市民の手で守り継ぐための、
仕組みをつくる。

歴史遺産研究領域 Historical Heritage Research Field

歴史遺産研究領域 2013年度修了

タカラベルモント株式会社
真田山旧陸軍墓地
維持会事務局 勤務
永田 綾奈

01 大学院に進んだ理由

本物にふれながら、
歴史を学ぶ中、
戦争遺産の保存修復という、
使命と出会う。

高校生の頃から、日本史に興味をもっていました。大学では文献の研究だけでなく、実際に歴史遺産にふれることのできる環境で学びたいと思い、本学の文化財保存修復学を専攻しました。3回生から伊達仁美先生のゼミに参加。卒論の研究テーマを考えていたところ、戦時中に鉄の代用品として陶器が使われていたことを知ります。出身地が瀬戸焼の産地で、焼き物が身近だったこともあり、「戦争遺産」への興味が湧いてきました。ちょうどその頃、伊達先生のもとに真田山旧陸軍墓地維持会から、納骨堂の骨壺の害虫被害を調査してほしいという依頼がありました。戦争遺産にふれられる機会ということもあり、調査に参加。その調査内容を卒業論文にまとめました。そのまま大学院で研究を続ける道を選択したとき、真田山の維持会から墓石の保存修復についての相談が寄せられます。ご縁あって、私がその研究を担当することとなりました。

02 大学院での学び

5000基もの墓石を、
どのように守り継ぐか。
市民ボランティアの手による
保存活動を、
確立させたい。

大阪城にもほど近い真田山旧陸軍墓地には、およそ5000基もの墓石があります。古いものは150年前のものです。当時の墓石に多く使われた和泉砂岩はもろく、長年の風雨による損傷が進んでいます。膨大な数にのぼるため、一般のボランティアの方でもできる保存・修復方法を考えなくてはなりません。まず、すでに確立されている和泉砂岩の保存方法を、ここの墓石にも適用できるか検証。学部の後輩たちに呼びかけてボランティアを募りました。私自身、本物の墓石を扱うのも、人に教えながら一緒に作業を行うのも初めてのことでした。真夏の日差しの中、墓石に注入する薬剤の量なども手探りで進めながら、みんなの力で1区画20基の保存作業を遂行。その成果を修士論文にまとめました。発表の場で「こういう活動があることを初めて知った」「作業に参加したい」と声をかけてもらい、自分たちの研究や活動について人に“伝える”ことの大切さも実感しました。

03 現在の活動

母校の研究センターとも連携し、
保存活動の輪を広げていく。

現在はCSR活動の一環として真田山旧陸軍墓地の管理を担っている企業に就職し、引き続き墓地の保存修復に携わりながら、事務局の仕事全般を担当しています。参拝や見学を希望される方の受付やご案内、ご遺族の方との事務手続き、会計まで、業務内容は多岐にわたります。この墓地について知ってもらうことが保存・修復の活動につながるため、広報活動にも力を注いでいます。パンフレットの作成も自分でしています。在学中から「いかに見やすく、わかりやすく伝えるか」を意識して様々な資料をつくった経験が、ここで役立っています。また、現在は京都芸術大学の附属機関である「日本庭園・歴史遺産研究センター」に、墓石の修復作業を委託しています。おかげで、昨年度は80基の墓石を修復することができました。伊達先生も毎年ゼミ生を連れて墓地を訪れ、戦争遺跡の保存についての講義を行われています。いろいろなご縁がつながって、活動の輪が広がりつつあります。

04 大学院の特徴・メッセージ

実践の場で経験を積み、
領域を超えて、
学び合える環境。

大学、大学院を通して、いくつもの実践の場に身をおいた経験が、今の私の糧となっています。伊達先生のもとには全国から相談が寄せられ、災害に遭った博物館の復興のお手伝いをしたり、資料館の移転プロジェクトに参加したり、民族博物館の史料点検などにも同行させてもらいました。貴重な史料をどのように扱うか。どこに着目すべきか。先生のご指導のもとでしっかりと基礎を学んだからこそ、歴史遺産の保全・修復に携わる者の一人として、今の仕事に向き合うことができています。また、歴史を専攻しながら、美術系など他領域の学生と交流できるのも、この大学院の大きな魅力です。私の場合は、他領域の方が関わる地域活性プロジェクトとの交流を通して学んだ知見が、今の広報活動に役立っています。ご縁あって出会えたこの墓地を将来に遺すため、様々な経験とつながりを力に変えて、保全・修復活動に取り組み続けていきたいと考えています。

永田 綾奈

歴史遺産研究領域 2013年度修了

歴史遺産にふれられる学びの場を求めて本学へ。学部時代に伊達仁美教授とともに真田山旧陸軍墓地の骨壺の調査に参加したことをきっかけに、修士課程では同墓地の墓石の修復方法を研究。膨大な数の墓石を保存するため、市民ボランティアで補強できる方法を確立する。現在は維持会事務局の仕事を一手に担う。本学附属の日本庭園・歴史遺産研究センターとも連携し、墓地を後世に守り継ぐために尽力する日々。

Works

歴史遺産研究領域 Historical Heritage Research Field

歴史遺産を読み解き、
伝承することをめざす

歴史遺産学とは、有形・無形の文化遺産(文化財)を研究を通じて次の世代に伝承するためのユニークな学問です。それらが表象する歴史文化を文献史学、考古学、民俗学、美術史等の視点で研究することで、その評価を明らかにして伝承する意義を示します。また、それらを科学的に調査・研究し、保存修復、活用までを実践的に追求し、伝承する方法・技術を支えます。

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