01 大学院に進んだ理由
絵画とアニメーションで、
目に見えないフィーリングを、
具現化したいと思った。
高校生の頃から、「絵を描きたい」「アニメーションをつくりたい」という気持ちを強く持っていました。日本が好きだったので、大学では日本語を学びながら、独学で絵画やアニメーションを制作。大学3年生の交換留学のとき、大西宏志先生(デザイン領域 領域長)に初めて自分の作品を認めてもらえました。「絵を描かないと、きっと後悔する」。そう思って進学を決意しました。私のテーマは、「抽象的なフィーリングを具現化する」ことです。人の感情は、目で見ることができません。それを表現できるのが絵画やアニメーションだと考え、制作に打ち込みました。佐藤博一先生にも作品を見てもらい、この大学は一人ひとりの個性を尊重する場所だという話をしてもらいました。先生の研究テーマや作風に合わせて選択肢を絞り込むのではなく、この大学院でじっくりと自分自身のテーマと向き合うことができました。
02 大学院での学び
キャラクターに、命を吹き込む。
女性が抱える感情の動きを、
アニメーションで表現。
私がアニメーションで描こうとしたのは、結婚適齢期にある女性たちの心の動きです。私が生まれ育った上海では、人民広場にお見合いをする場所があり、学歴や年収、年齢などの条件が書かれた紙をもとに、本人の意思ではなく親が結婚相手を判断するという光景が見られます。私自身も結婚適齢期にある女性の一人として、こうした慣習に違和感がありました。本人の意思とは違うところで、人生の方向性が決まってしまう閉塞感をアニメーションとして描き、女性たちの苦悩や葛藤を一人でも多くの人に知ってもらいたい。そして、個性を尊重することの大切さを伝えたい。そんな想いで、女性が年齢によってレッテルを貼られてしまう社会を描いた作品「UMBRELLA」を制作しました。アニメーションという言葉には、ラテン語で「命を吹き込む」という語源があります。アニメーションは、「絵」「ストーリー」「音楽」など、いくつもの表現手法を組み合わせて複雑な心の動きもいきいきと描き出すことができます。制作に時間は要しますが、その分、伝わるものの量も多くなると考えています。作品を初めて上映したとき、共感の言葉をくれた方もいて、つくり手としての喜びを肌で感じました。
03 現在の活動
デザイナーとしての仕事、
講演、自主制作。
あらゆるフィールドで、
ダイバーシティの重要性を
伝えたい。
現在は、中国に帰国し、SFCという金融系の国営企業でマルチメディアデザイナーとして勤務。アニメーションからグラフィックデザイン、映像制作まで幅広い仕事に携わっています。会社の仕事以外にも、芸術系のセミナーや講演にも招待していただき、アニメーション作品の紹介や、留学経験について発信をしています。「描きたい」という想いは今も強く、自宅で時間を見つけてはスケッチブックを開き、個人制作も精力的に取り組んでいます。たとえば、野菜や果物をモチーフに女性の外観に関する偏見を描き、ダイバーシティに関する問題提起を行っています。仕事においても個人活動においても、大学院で問題を解決するためのプロセスを学べたことは私にとって大きな財産になりました。「背景を調べる」「目的を考える」「問題の解決方法を模索する」一つひとつの段階を踏んで自分のテーマと向き合った経験が、社会に出てあらゆる場面で活きています。
04 大学院の特徴・メッセージ
仮説を、仮説のままで
終わらせない。
自分の目で見て、
自分の手を動かして、
学べる2年間。
この大学院は、個性を尊重した環境で、一人ひとりの可能性を広げてくれます。アニメーションの学生でも、視覚デザインや建築など、多彩な講義を受けられます。選択科目も、芸術だけでなく、社会学や、人類学、哲学など多様な学びのフィールドが広がっています。「ゴリラの言語」や「ジーパンの生産ライン」についての話など、多様な価値観を育んでくれるような講義の数々が心に残っています。在学中の2年間は、あっという間に過ぎ去ります。これから大学院に進まれる皆さんは、その2年間で、自分の目で感じること。終わりから逆算して問題を考えることを大切にしてください。そして大学院では、自分の研究を想像で終わらせるのではなく、手を動かし社会にアウトプットすることが求められます。一つの仮説を立てたら、それを仮説のままにするのではなく、行動することで解決していく。この経験が、きっと人生で大切なことを教えてくれます。チャンスは、常に目の前に転がっています。
白 宇航
デザイン領域 2018年度修了
中国の南開大学日本語科を卒業後、本学でアニメーション制作に臨む。女性が年齢で評価されることへの問題意識を描いた作品「UMBRELLA」を制作。学外でも評価され、日本コタツアニメーションフェスティバルで紹介されたり、母国中国でのイベントでも上映されたり発表の場を広げている。現在は、金融系の国営企業でマルチメディアデザイナーとして働きながら、自身の制作も意欲的に続けている。
映像・メディアコンテンツ領域
(旧:デザイン領域)
Image-Making and Media Content Research Field
社会的課題を発見し、
情報伝達や生活の新たな仕組みを提案する
デザインは常に社会を変える原動力となってきました。地球環境や世界情勢が 大きく変動している現在、デザインの役割はますます重要になってきています。本領域では5年先10年先の世界を見据えて、情報コミュニケーション、ビジュアルクリエーション、プロダクトデザインに関わる実践者、研究者を育んでいきます。