建築とは何か?人間とは何か?
芸術や哲学ともつながる
“総合芸術”としての建築。

建築・環境デザイン領域 ARCHITECTURE AND ENVIRONMENTAL DESIGN FIELD

建築・環境デザイン領域(旧:環境デザイン領域) 2020年度修了

建築事務所 勤務 栗林 勝太

01 大学院に進んだ理由

芸術や哲学、認知科学など、
ひらかれた複合芸術としての
建築に、
心惹かれた。

もともと日本庭園に興味があり、農業高校で造園について学んでいました。名園といわれる庭園が数多く在る京都のまちに惹かれ、日本庭園の第一人者のひとり、尼﨑博正先生が在籍されている京都芸術大学へ。学部時代は、庭園だけでなく建築にふれる機会も多く、芸術や哲学、認知科学、社会学などの様々な要素を統合・吸収していく“複合芸術”としての建築に、次第に心惹かれていきました。ただ“建物”という対象物の内にこもって考えるのではなく、その背景にある複合的なコンテクストを読み解いていくプロセスは、自分が庭園を通して体現したかったことともつながっていました。学部の卒業制作では、1960年代~80年代に活躍したピーター・アイゼンマンらに影響を受け、“分解と再構成”によって生まれる建築の意味を追求。関心が「認知言語学」へと広がり、幅広い視野からじっくり建築に向き合ってみようと、大学院への進学を決めました。

02 大学院での学び

人間の身体的な動きが、
建築と呼応していると、
建物がいきいきとして見える。

認知言語学には、繰り返される身体の動きのパターンが人間の想像力などの根本をなすという「イメージスキーマ」と呼ばれる概念があります。繰り返される日常的な行動をスキーマ化(抽象化)することで、世界を理解する鍵にしていく。この考え方を知り、「建築の根本にもあらゆる身体性が影響している」という視点に立って、自分なりのイメージスキーマを建築に投影し、分析を試みていきました。たとえば、上昇図式。階段の上り下りによる「身体的」な上昇。また、暗い空間に一筋の光がさしたとき、光の方に上昇の「意識」がいきます。建築史をふり返ると、身体と意識の上昇を組み合わせた、階段とトップライトの構造がたくさん見られます。このように、イメージスキーマが顕著に作用している建築は、見ていても自然におもしろく、居心地もよく、いろいろとプラスな感情が湧いてきます。人間の身体的な動きが建築と呼応していると、建物がいきいきとして見えるのです。

03 現在の活動

自分なりの理論を確立させ、
多様な視点をもって、
建築と向き合っていく。

研究を指導いただいた小野暁彦先生は「建築をするからには自分なりの理論を確立させなさい」と、建築理論について熱く語ってくださいました。建築を考えるときに、閉じた思考ではなく、「建築とは何か?」「人間とは何か?」と考えを拡大させていく。そんな先生のもとで、広いスケールと多様な視点をもって建築と向き合う面白さを知りました。修士論文のテーマとして掲げた「認知言語学と建築」の研究を通して、自分なりの建築理論が芽生え、2年間の集大成として、学生選抜展示「KUA ANNUAL 2021」にも参加することができました。研究の成果をアートとしてアウトプットするのは初めての経験で、鑑賞者に何をどこまで伝えるか、試行錯誤しながら挑戦しました。今は、都内の設計事務所に志願し、建築家としての一歩を踏み出しました。いつか、地元の長野に戻って建築事務所をひらき、そこに住む人の身体的な動きと呼応するような住宅をつくっていけたらと考えています。

04 大学院の特徴・メッセージ

芸術大学で、
建築を学ぶ意味とは?
領域横断型の環境が、
多様な視点を養ってくれた。

2年間じっくり建築と向き合えた日々は、自分にとって特別な時間でした。専門的な文献を読みこんで理論の大枠を掴むこと、その理論をもとに実際に様々な作品を見て分析を試みること、他分野の人とふれ合うこと。私は「建築」という道を選びましたが、工学系の大学ではなく芸術大学で建築を学ぶ意味を考えたとき、この大学院の「領域横断」型の環境は大きな魅力です。ここには、間近に絵を描いている人がいたり、映像をつくる人がいたり、歴史を研究する人がいたり、他分野から建築を見ることで多様な物の見方を養うことができます。私が在籍していた環境デザイン領域ひとつとっても、同じ領域の中に、インテリア、ランドスケープ、まちづくりなどいろいろな専門分野があり、他者から何かを学び取るチャンスが常にひらかれています。これから大学院に進む皆さんには、2年という時間を活かして、大きく視野を広げる時間を過ごしてほしいと思います。

栗林 勝太

建築・環境デザイン領域(旧:環境デザイン領域) 2020年度修了

長野県の農業高校出身。造園科の学びで日本庭園に興味をもち、京都芸術大学へ。学部3回生の頃、建築に興味が広がり、理論を深めるために大学院へ進学。「認知言語学と建築」をテーマに、徹底した論考と制作を行う。その成果を展示物として視覚化した『建築的図式 No.1〜16』は、東京都美術館で開催された学生選抜展示「KUA ANNUAL 2021」に選抜されるなど、高い評価を受ける。卒業後、東京都内の建築事務所に志願し、一歩を踏み出す。

Works

建築・環境デザイン領域 ARCHITECTURE AND
ENVIRONMENTAL DESIGN FIELD

地球的視野のもとで生活環境を見つめ、
都市と居住空間をかたちづくる

建築・環境デザインでは、都市や生態、地域性といった私たちが生きる環境をどのように考えるかが重要になります。本領域では、専門分野と周縁分野の制作・研究に取り組むなかで、環境デザイン的実践知を獲得していきます。既存の世の中の価値や信念について考えるきっかけとなる問いを投げかけ、建築・環境デザインの境界を広げながらその未来像を提起できる人材の育成を目指しています。

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