ひみつのアトリエ

この村に生息する本学教員は皆個性豊かな表現者であり研究者です。彼らにとって大切な「ひみつのアトリエ」を紹介します。普段なかなか見ることのできない先生方の素顔、意外な一面が見られるかもしれません。また、みなさんにとって何かしらのヒントが見つかるかもしれませんね。
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後藤吉晃

日本画コース


 私の住居兼アトリエからは上醍醐あたりの山並みが眺められて、晴れの日には晴れの日の、雨の日には雨の日の表情が面白く、森が纏う雲の様子をいつも楽しんでいます。ふっと振り向くと、室内にはパネルや素材の山並みが眺められて、どうにかしないとなとその光景にはいつもゾッとしています。

そんなアトリエですので特徴らしい特徴はないのですが、今回ご紹介しようと思うのはアトリエの壁です。
アトリエの壁には下地のテストピースであったり昔の小作品などを掛けています。といってもこれらを自分で眺めることはほとんどないんです。

学生時代より古びたり朽ちたりしたものの表層に魅力を感じていました。そういったこともあり制作でも絵肌に興味があって、日本画の顔料以外のものも多く溶いていましたし画面を磨いていた時期もありました。画面の上では様々な現象が起こるので楽しいものです。時には画面に負担をかけることもあって、何か問題がある度に工程を変えたり、濃度を変えたり、素材を変えたりと試行錯誤の連続でした。

基本的に試行錯誤は現在も変わらないのですが、それがどのように変化するのか、しないのか、長期的に自ら確かめたいという思いが大学を卒業してからはより強くなりました。もともとは保管場所に困って蔦の葉の様に壁面に増殖していったのですが、現在は経年変化の実験の場としてアトリエの壁には様々なものを掛けています。

古典を見ても描かれた当時のままでというのは難しい技法ですし、表現だけでなくその素材や技法も日本の風土に根ざしたものでしたけれど、建築の機密性も違えば、日本画材といっても様々な新しいものが生み出されていく現在。その中で作家によって様々な発想があるとは思うのですが、自分なりに美しく年を重ねていけるだろうものを選んで描いていきたいと思っています。50年も100年も経ってどうかは自分では確かめることができないかもしれませんが、現在の肌感では大丈夫と思える判断基準としてこの壁は役立っています。

ここも手狭に感じられそろそろ限界と思ってからも暫く経ってしましましたけれど、他の場所に移っても壁での実験は続いていきそうです。