ひみつのアトリエ

この村に生息する本学教員は皆個性豊かな表現者であり研究者です。彼らにとって大切な「ひみつのアトリエ」を紹介します。普段なかなか見ることのできない先生方の素顔、意外な一面が見られるかもしれません。また、みなさんにとって何かしらのヒントが見つかるかもしれませんね。
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望月公紀

建築デザインコース


 ひみつのアトリエ

これを読む多くの方が自分のことは知らないだろうから、まずは自己紹介からかなと気楽な気分で書き始めてみる。

自分も本学通信教育部に通う多くの方々と同様、異分野からの転身で、現在、建築を生業としている。大学では化学を学び、毎晩遅くまで実験する日々。25歳に化学にて修士の学位を取得したにも関わらず、建築の魅力に惹かれて建築学科に転身した。周囲からは、特に親と指導教官からは、えらく反対された。

それを振り切って美大の建築学科の門戸を叩き、自分の建築の恩師である六角鬼丈先生が『身置くだけなら良いよ(苦笑)』と、何処の馬の骨ともわからない若者の熱意に押し切られ、研究生として迎え入れてくれた。

研究室の方々がとても良い人ばかりで、みんながすべてお手本で、見よう見まねで建築を学んだ。当時は大学も和やかで、1~4年生の面白そうな課題の聴講生として、いきなり設計課題に取り組むことを許してくれた。徹夜続きの2年間を過ごしポートフォリオを作って大学院受験に挑んだ。まさに異分野3年次編入学みたいな感じであった。自分の建築人生はそんな形で始まっている。

当時は、もう後には引き下がれないという想いだけでひたすら建築のことしか考えていないような、今思い返せば、とても幸せな時間を送らせてもらった。先生をはじめ、両親、友人、その時を支えてくれたみんなに感謝しかない。

そこからかれこれ20年が経つのかと、あらためて振り返ると感慨深いものがある。

今は建築築事務所/archichi officeという事務所を運営している。
自分が化学を学んでいたことから実験研究室の設計に携わることになり、事務所の仕事の半分以上はそのラボの設計になってきた。無駄な学歴と言われたこともあったが、人生無駄なことは何もないんだと、本当にありきたりな言葉ではあるが、日々実感している。

昨年、隣の部屋があいたので、コンクリートブロック壁を解体してワンルームで使わせて欲しいとオーナーに交渉し、かっこよくリノベーションするからと建築家の職権を利用してオーナーを口説き落とし、60平米のワンルームを新たな事務所とした。

窓も作り替えさせてもらい、すっきりと外が見えるオフィスにした。北側のルーフバルコニーの向こうには小学校の校庭を眺め、正面の窓からは四谷駅先の上智大学までが見通せる窓が気持ち良い。

独立してから10年が経った。
また新しいスタートをこの四谷が見渡せる事務所から始めていこうと心新たにする特等席である。