「Self Integration」
The Beggining
洋画コース 増田 亜美 (Ami Chibana)
130.3 × 162cm
キャンバス/油彩、アクリル
本作品で日本髪を選んだのは、その造形に「平和」という感覚を強く見出したからである。日本髪は、戦のない江戸時代という長い安定期のなかで、人々の内面性や精神性を映し出す象徴として洗練されていった形だと私は捉えている。過剰に自己主張することなく、静かに整えられたその姿には、日本の美意識に通底する「間」「余白」「あわい」が内包されている。本作では、その目に見えない感覚が画面全体に漂うような構成を目指した。
同時に、本作品は日本の伝統をそのまま再現する試みではない。日本髪という伝統的モチーフを起点としながら、西洋的な色彩感覚や左右対称という構造を取り入れることで、異なる文化の感性を一つの画面に共存させている。東洋か西洋かという二項対立を示すのではなく、それぞれが持つ特質が相互に学び合い、溶け合う状態を視覚化することを意図した。
私が描きたかったのは、支配や優劣ではなく、調和である。二つの文化、二つの価値観、二つの視点は、対立するものとして分断されがちであるが、本作ではそれらを緊張関係ではなく、静かなつながりとして描いている。画面に配置された二人の人物は対極に位置しながらも、互いを否定することなく、呼吸のように自然で無理のない関係性を保っている。
この表現は、約10年間にわたってニューヨークで多様な価値観に触れ、日本へ帰国した私自身の内側で起きた変化とも重なっている。異文化の中で外側へと開かれていた意識が、帰国後、内面へと静かに統合されていく過程。その体験は、自己の内にある男性性と女性性、理性と感性といった二極が、対立ではなく循環として結び直されていく感覚と深く響き合っている。
本作は、相反するものを別々の存在として切り分けるのではなく、その境界が溶け合い、やさしくつながる「あわい」の状態を可視化する試みである。鑑賞者がこの作品と向き合うとき、画面の中の関係性を自身の内側にも重ね合わせ、それぞれの中にある静かな調和の感覚に触れてもらえたらと考えている。
130.3 × 162cm
キャンバス/アクリル、モデリングペースト
増田 亜美 Ami Chibana
洋画コース
東京出身。美容専門学校卒業後、美容師・ヘアメイクとして活動を開始。専門学校教員資格を取得後、ニューヨークへ渡り、約10年間にわたり現地サロン勤務のほか、ファッションウィーク、雑誌、テレビなどのヘアメイクに携わる。帰国後は結婚・出産を経て、現在はヘアスタイリストとしてサロンワークを行いながら、美容専門学校の外部講師としても活動している。 出産時に経験した臨死体験をきっかけに、生と死が隣り合わせであることを実感し、「いつか」ではなく「今」体験し、学び、生きることへの意識が大きく変化した。 絵を描くことで、自分の内側からどのような表現が立ち現れるのかを知りたいという思いが芽生え、限りある時間の中で自分自身と向き合うため、大学での学びへと踏み出した。現在は京都芸術大学通信教育部美術科に在籍し、これまでの実践的なキャリアと内省的な問いを往還しながら学びを続けている。
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