「我こそはと影に思ふ心~触れ得ぬ君の遠さ~」
書画コース 横垣敬子
屛風 (二曲)
60×70 2枚
「いかなれば 花に木づたふ 鶯の 桜をわきて ねぐらとはせぬ」
どうして 花から花へと飛び移る鶯は 桜を別扱いして ねぐらとしないのでしょう
源氏物語「若菜上」の中で、六条院からの帰り道に柏木が光源氏を鶯に例えて、なぜ女三宮のことを大切にしてやらないのかと、夕霧に話すときに詠んだ和歌である。
本作は、六条院における蹴鞠の場面を主題とし、物語が次代へと移ろい始める転換点を描いた作品である。光源氏の息子・夕霧と、元頭中将の息子・柏木が鞠に興じる最中、唐猫が飛び出し御簾が巻き上がることで、朱雀院の娘・女三宮の姿が柏木の目に晒される。その一瞬が、柏木の胸中に秘められていた想いを決定的なものへと変えていく。
画面では、殿方たちが鞠に興じる姿の中に、鞠よりも御簾へと意識を向ける柏木の不安定な視線を忍ばせ、また女三宮は猫を追うことに気を取られ、己の姿が見られていることに気づかぬ無垢さを描いた。桜の鮮やかな色彩は春の温もりと若さを象徴している。桜の華やかさと松のどっしりとした重さを対比させ、若き情念の危うさと、因果が巡り、光源氏を中心とした時代が静かに次代へ移ろう兆しを、この一場面に凝縮した。
横垣敬子
書画コース
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