芸術時間

芸術とは美術館の中にあるものだけではありません。実は我々の身近な生活空間にもいくつも潜んでいるものでして、この村の住人は常にそれを探求しています。ここでは本学教員がそれぞれ見つけた「芸術時間」をコラムにしてご紹介します。
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お漬物の器


壺焼きの合図


 空間演出デザインコースでは、五月の大型連休に京都・丹後半島の久美浜にある大学のセミナーハウスで「空デ遊学旅行」という2泊3日の合宿を開催している。初日の午前中、全国各地から京都駅に集合して観光バスに乗り込み、4時間ほどかけて現地に向かい、着いたらすぐに部屋割をして荷物を溢いて、遊学を開始する。遊学とは名前の通りで、U先生が厨房に入って作ってくれる食事の時間以外に決められたプログラムはなく、3日間をどう過ごすかは各自の自発性に委ねられている。最初は皆戸惑うのかと思いきや、そこはさすが芸大生。あっという間にセミナーハウスから飛び出して、浜辺に行ってビーチコーミングをしたり、スケッチをしたり、凧を作り始めたり、夕食の時間まで思い思いに遊学している。ちなみに参加する教員も、U先生は3日間の料理(これがめっぽう美味しい)、T先生は点描、私は俳句といったように遊学するのが常である。研究室からも遊びのための工作道具を持ち込んでいるので、時にはセミナーハウスの看板づくりや、製本のワークショップを開催することもある。製本には大きな裁断機まで持ち込んでいるので本格的だ。滞在2日目ともなると、勢いもさらに増して大型の制作に取り組む学生も現れて、今年は浜辺に海を眺めるひとり乗りのブランコも出来上がった。また、お手製の窯でピザを焼くことは恒例になっているので、発酵時間を逆算して生地をこね始める学生がいるのも頼もしい。最終日は遊学の締めくくりとして、3日間の出来事を俳旬に詠んでもらう句会と各自の取り組みの発表会。T先生が遊学の合間に作ってくれたトロフィーの授与式でフィナーレを迎える。もちろんu先生特製カレーをいただくことも忘れてはならない。
さて、思い返すこと2日目の夜。バーベキューで焼いた新鮮なサザエが爆発した。まさにもぬけの殻の状態で、網の上に殻だけを残して、5m先の暗闇へ蓋ごと飛んで逃げたのだ。久美浜はいつもわれわれに芸術時間を与えてくれる。

壺焼きの砲撃止んで夜更けかな牛努