芸術時間

芸術とは美術館の中にあるものだけではありません。実は我々の身近な生活空間にもいくつも潜んでいるものでして、この村の住人は常にそれを探求しています。ここでは本学教員がそれぞれ見つけた「芸術時間」をコラムにしてご紹介します。
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藍の華


「藍の神様」


 令和元年10月に台北国立芸術大学で藍についてのレクチャーとワークショツプを開催しました。人生の半分以上を共に暮らしている藍が結んでくれた今回の海外でのお仕事は改めて、日本人の物作りを考え、学び直した時間でした。ある蒅(すくも)の紹介をしたいと思い、長年お世話になっている藍師の方に連絡をし、資料や画像の提供をして頂きました。ちなみに藍師とは藍染の染料である蒅を作る職人の事です。
 台湾では藍染めの染料は「泥藍」、日本の本土では主に「蒅(すくも)」を使用します。
 両者は、植物の種類も違えば、染料にする為の製法も違います。日本の蒅作りは、種まきから出荷まで1年かかります。この気の遠くなる仕事を家族全員で行い、すべての工程は手作業によるもので、さらに天候や気温に左右される重労働です。私の想像の範囲を遥かに超える内容の仕事でした。
 土を作り、大切な種を蒔いて苗を育てます。次に厳選された苗を畑に移植し葉藍を育てます。6月に入ると1番刈り、2番刈り、3番刈りと3回葉藍を収穫し、次は葉と茎に分ける藍こなしをし、葉を細かく刻んで天日干しをして乾燥葉が完成します。ここからは藍師の腕の見せどころです。寝床と言う特別な場所に水を打ちながら乾燥葉を積み上げる寝せ込みの作業をします。次に水を打ちながら寝床から寝床へ移動し発酵をさせる切り返しの工程は120日間に23回〜30回程繰り返し、最後に留水を打ちます。これは藍の葉に菌を植え付ける大変重要な仕事で1月下旬までこの作業は続きます。
 提供して頂いた動画の中で、藍師は語っていました。「僕が作った蒅で染めた藍の色が50年、100年、200年先にまだ存在するのか、または僕の技術が足りない事で100年先に色が消えてしまうのではないか、でも愛情かけて育てたから最後まで色は残っていると思います。」仕事の区切りに蒅に向かって手を合わせ祈る姿は、美しく清らかに見えました。
 神様がいると信じ祈るように物を作り上げる意識は日本人の物つくりの原点なのではと思い、忘れかけていた大切な事を思い出した瞬間でした。