ひみつのアトリエ

この村に生息する本学教員は皆個性豊かな表現者であり研究者です。彼らにとって大切な「ひみつのアトリエ」を紹介します。普段なかなか見ることのできない先生方の素顔、意外な一面が見られるかもしれません。また、みなさんにとって何かしらのヒントが見つかるかもしれませんね。
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山田真澄

日本画コース


 私がふだん絵を描いているアトリエは、自宅内の一室です。結婚と同時に奈良に移り住み、最初は普通の借家でしたが10年ほど前に奈良県内の古民家を購入し、今も自宅兼アトリエとしています。幼いころから小さいながらも一軒家に住んでいたせいか、マンションのような家にあまり興味がわかず、現在の家を探す時も購入しやすい中古住宅からアトリエとして1室を貰う条件で色々な中古物件を探しました。主人が古社寺の修理関係の仕事をしているので、家屋の基礎的な土台や使われている材質にこだわりがあり、また私も昔から古い家を改装して住みたいというおぼろげな夢もありましたので、かなり多くの物件を見て回った上で、やっと現在の家に出会うまでに1年ほどかかりました。
 10年前で築70年だったので、現在では築80年になります。入ってすぐに客間用の洋室があり、その奥に母屋、廊下で繋がった奥には寝室として使っていたらしい2階建ての和室が1階12畳、2階が12畳分ありました。入居する時のリホームでこの1階部分にキッチンをつけてリビングダイニングとし、現在は家族の居住空間としています。床の間と仏間のある母屋の方はほぼオリジナルを残し、傷んでいるところだけを修理をして、その中の8畳間1室をアトリエとして現在使っています。
 母屋の部屋は全て純和室の畳敷きですので、大きい作品用の乗り板(日本画は画面を寝かせて描くことが多いため画面の上から描けるように板に足をつけて画面の上に渡したものを乗り板と言います)が中央にドドンと置いてあり、その上に乗って小さい作品もすべて描くのが私の制作スタイルとなってしまいました。学生のころから制作用に1室を作るとそこに置いてあるパネルや麻紙、日本画の絵の具の独特のにおいがその部屋を包み込みます。私は意外とこのにおいが好きで、このにおいと描きかけの画面を見ると自然とスイッチが入ります。ですから、なるべく制作途中や完成間近の作品を部屋のあちこちに立てかけて、忙しい時でも少しでも手を入れられるようにしています。
 制作中、気がつくと私の周りが絵の具皿で一杯になってしまうので、ホームセンタ―で売っている千円程度の木箱を購入して横に倒して下にキャスターをつけ、絵の具皿の高さに段をつけて、シナベニアを切って引き出しにしました。写真奥にあるのがお手製のミニキャビネットです。ちょっと気に入っているのでアップしました。
 この部屋で満足のいくまで描く時間はなかなかありませんが、時間があったからと言ってよい作品ができるとも限りません。思えば、まだ絵を目指す前の私は勉強の合間の息抜きとして時間を決めて絵やイラストを描いていたことを思い出します。今はたとえ10分でも1色塗るだけでもこの部屋で描くことで本来の自分に戻れているのかもしれないと、この原稿を書いていて気がつきました。