ひみつのアトリエ

この村に生息する本学教員は皆個性豊かな表現者であり研究者です。彼らにとって大切な「ひみつのアトリエ」を紹介します。普段なかなか見ることのできない先生方の素顔、意外な一面が見られるかもしれません。また、みなさんにとって何かしらのヒントが見つかるかもしれませんね。
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三上美和

芸術学コース


 みなさんこんにちは、芸術学コースの三上です。台風15号の接近が心配されるなか、無事スクーリングを終えました。都内の朝方の暴風雨も恐ろしいほどでしたが、交通機関の混乱をはじめ多くの被害が報告されています。被害にあわれた方にお見舞い申し上げるとともに、一日も早い復旧を願っております。

さて、この「ひみつのアトリエ」の原稿依頼を受け、改めてこれまで書かれた先生方の原稿を拝読したところ、それぞれ大切な制作の場について丁寧に書かれており、引き込まれて一気に読了しました。とはいえ私に特別なひみつはないのですが、私も先生方にならい、これまで勉強や仕事をしてきた場所について書いてみます。

今まで一番長い時間過ごしてきたのは、実家と自宅の仕事部屋です。ここでその時々に取り組んでいる
仕事に関する本や資料に囲まれつつ、パソコンに向き合っています。かつて図書館の自習スペースでも作業してみたのですが、支度に手間取る割に効率が上がらなかったので、結局自宅に落ち着きました。仕事部屋といっても、自宅では物置部屋を書斎に転用したこともあり、増え続ける本の収納にはいつも悩まされています。

今思えば、大学院の最終年次から客員研究員として4年間お世話になった東京国立近代美術館工芸館は、膨大な研究資料の間近で仕事ができる実に快適な場所でした。御存知の方も多いと思いますが、重要文化財に指定されている工芸館の建物(写真1枚目)は元々、明治43年(1910)に建てられた近衛師団司令部庁舎で、戦後、工芸を専門に扱う工芸館として再生されたものです。

事務所とスチール書棚で仕切られた研究スペースは、正面玄関を挟んでちょうど向かって左側です(ここに挙げた写真にもちらっと写っています)。その突き当りには工芸関連の充実した資料室が、また徒歩数分にある本館にも近代美術関連の資料室があり、自由に調べ物ができる(しかも借りられる!)、研究に最適な場所でした。作品のすぐそばで仕事ができるのも嬉しいことでした。ここで得た様々な経験が今の活動の基礎になっていると思います。来年度、工芸館の金沢移転が決まったため、それ以降はこの研究スペースもなくなってしまいますが、私にとって大事な場所であることに変わりありません。

ところで、東京国立近代美術館本館と工芸館は、皇居前の北の丸公園内にあります。地下鉄の九段下から武道館の脇を通り工芸館に向かって歩くと、小川のあるちょっとした和風庭園に出ます(写真2、3枚目)。近衛兵たちが騎馬で闊歩したというこの道は、隣接するごく普通の広い公園(写真4枚目)から道路を挟んだだけですが、新緑や紅葉の美しい、とても静かな落ち着いた雰囲気です。九段下といえば千鳥ヶ淵の桜が有名ですが、知る人ぞ知る九段下ルートを通って、ぜひ一度訪れていただきたいと思います。移転まであと半年しかありませんが、私も時間の許す限り資料調査に通うつもりです。