ひみつのアトリエ

この村に生息する本学教員は皆個性豊かな表現者であり研究者です。彼らにとって大切な「ひみつのアトリエ」を紹介します。普段なかなか見ることのできない先生方の素顔、意外な一面が見られるかもしれません。また、みなさんにとって何かしらのヒントが見つかるかもしれませんね。
backnumber


川合健太

空間演出デザインコース


 狭い。とにかく狭い。身長183cmの私は、普段、約2畳の空間の中で仕事をしている。写真は大学の教員室の一角にある私に与えられたスペースで、机1つと本棚4つ、背後は腰まで壁、あとは目隠しフィルムの貼られたガラス面がある。自宅の一角にある仕事場も同じくらいのサイズで、なぜかよく似たレイアウトになっている。
 普段の仕事といえば、大学での業務はもちろんのこと、インテリアデザインなどを行うので、パソコンで図面を描いたり、机でスケッチしたり、模型を作ったりという作業スペースがあれば十分なのだが、いつもこの机の上の作業スペースは、たくさんのモノに囲まれて、小さく、小さくなっていく。おかげで肩もすぼまってしまって、猫背なのもそのせいかもしれない。A3サイズほどの作業スペースに、用紙を広げて図面を見たり、小型のカッターマットを置いていろんな材料を切って組み立てたり、すべてがこのサイズの上で展開される。いわゆる設計資料集成などに載っている標準的な寸法には全然合致せず、おそらくは私の個人的な嗜好によって形作られた形態ではないかと思われる。
 読者の皆さんは通信教育部で勉強されているので、論文やレポートを書く、大きな絵を描く、パソコンでデザインする、などさまざまな作業スペースをお持ちだと思うが、私のこれは全くその参考にもならないし、羨望の眼差しをうけるにも程遠い。「あ、私の作業スペースのほうが恵まれていますね…。」と、むしろ同情を誘うくらいに慎ましやかなアトリエである。しかしながら、私はこの現状に悲観的になっているわけではない。
 ひとたび机から外に目を転じれば、ガラス窓の向こうには神宮外苑の木立が広がり、空も見え、やわらかな光も降り注ぐ。窓を開ければ、心地よい風も入ってくるし、鳥の鳴き声も聴こえる。自宅のそれもまた同じである。そんな中に身を置いていると、身体的には狭い空間ではあるものの、頭の中には広大な空間が広がるものである。むしろ、狭い空間に身を置いていることでしか感じとることのできない空想世界とでも言おうか。しつこいようだが、これは決して悲観的になっているわけでなく、現実そうなのである。もし疑いの目を持っていらっしゃるのなら、ご自宅の中に、このような空間を作ってみられることをお勧めする。そうすれば、このひみつは瞬くうちに明らかになるはずである。

一坪のアトリエのそと秋の色 牛蒡"