ひみつのアトリエ

この村に生息する本学教員は皆個性豊かな表現者であり研究者です。彼らにとって大切な「ひみつのアトリエ」を紹介します。普段なかなか見ることのできない先生方の素顔、意外な一面が見られるかもしれません。また、みなさんにとって何かしらのヒントが見つかるかもしれませんね。
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田村蘊

空間演出デザインコース


 広島県千代田インターを目指して一路中国自動車道を西へ。そこには知合いの鉄工場があります。レーザーカッター、シャーリング、溶接機など。制作に必要で便利な機材が自由に使用でき、工場の片隅には私の作業場までありました。何よりも魅力的なことは多くの優れた職人さんたちの仕事や技術を見たり、相談にのってもらえることでした。60代前半まで立体作品やモニュメントの仕事を会社に依頼していたのでこの様な「幸せなアトリエ」を持たせてもらったのです。半日車を運転しても何ら苦にはなりません。寧ろ好きな空間で 楽しい時間が過ごせる期待感で一杯でした。

そしてここからが今回の本題です。
キース・ジャレットの軽快なピアノタッチに合わせて点を打つ。酸味の強いコーヒーを一口飲んで線を引く。誰にも邪魔されず好きなだけこのテーブルを独占し制作に没頭出来る、まさに「秘密のアトリエ」です。懐かしいjazzが店内に流れ、トラジャ・コーヒーの薫りが広がるここは京都の老舗 jazz spot。主人は高校時代からの旧知の間柄。少し疲れてきた時を見計らって私のお気に入りのレコードをかけ、ほろ苦いチョコをテーブルの片隅に置いていってくれる、さり気ない「もてなし」が心憎い。
いつの頃からか時間があればどこででも手軽な道具で自己流ドローイングを楽しむようになりました。バッグには0.2〜0.5ポイントのボールペン、シャーペン、消しゴム、定規が入ったペンケース、必需品のルーペそしてスケッチブック。これが必須道具。高価な機材や立派なアトリエも今の私には必要ありません。新幹線の車中でも教室の片隅でも描きたくなったら制作開始。私にとって「秘密のアトリエ」とは無我の境地に身を置ける空間であるのかも知れません。