いまとここにいるよ
写真コース 佐藤 宗巧
本作は、子どもと過ごす日常の中で出会う風景や行為を記録した写真シリーズである。特別な出来事ではなく、歩く、触れる、立ち止まるといった小さな行為の連なりの中に現れる時間に関心を持ち、身近な生活圏で撮影を行った。
子どもは、目の前にあるものへ迷いなく手を伸ばし、隙間を覗き込み、足元の模様に触れながら世界と関係を結んでいく。その姿を見ていると、普段は意識することのない場所や物にも、未知の感触や発見が潜んでいることに気づかされる。変わらないように見える日常の風景も、関わる身体や視線によって、その意味や輪郭を変えていく。
撮影者である私は、子どもの行為を導くのではなく、その動きのあとを追うようにカメラを向けた。写真は何かを演出するための道具ではなく、目の前で起きている出来事を受け止めるための装置として用いている。触れる手や歩く背中、立ち止まる身体の断片を重ねることで、ひとつの時間の流れとして構成した。
タイトルの「いまとここにいるよ」は、子どもの存在を確かめるための言葉であると同時に、撮影者である自分自身への呼びかけでもある。日常の中で過ぎ去ってしまう時間に対して、写真を通して立ち止まり、「いま」「ここ」にある時間を見つめ直す行為そのものが、本作の制作動機となっている。
特別ではない場所で過ごす何気ない時間の中にこそ、確かな存在の手触りがある。本作は、その微細な時間の感覚を写真としてすくい上げる試みである。
足もとに世界があることを、この子はまだ知らない。
触れて、冷たさを知る。名前のない感触が、記憶になっていく。
小さな穴の向こうに、まだ言葉にならない好奇心がある。
向こう側を見つめる背中。世界はいつも、少しだけ遠い。
越えられない境界線の前で、ただ立ち止まっている時間。
大きな根のそばで、自分の小ささを知る。
ひらけた場所で、影だけが先に歩いていく。
通りすぎる電車。世界は、この子を待たずに動いている。
少しずつ、遠くへ。背中は、もう振り返らない。
この道の先を、まだ誰も知らない。
佐藤 宗巧
写真コース
日常の中で出会う小さな出来事や風景をテーマに写真制作を行っている。特別な瞬間ではなく、歩く、触れる、立ち止まるといった何気ない行為の中に現れる時間や関係性に関心がある。
本作では、子どもと過ごす日常の中で見えてきた風景を記録した。身近な場所での出来事を通して、「いま」「ここ」にある時間を静かに見つめ直すことを試みている。
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