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雲海に浮かぶ楽園

(大学院)日本画分野 關 正玟 (Kuan Fumi)

綿、染料、水平絵具、岩絵具、箔、胡粉

この作品は「雲海の上の想像の世界」をテーマに、朝と夜という異なる時間帯から同じ世界を描いた二点の作品と、シリーズ小作品によって構成されている。

幼い頃から抱いてきた空への憧れ、毎回飛行機に乗るたび、窓の外に広がる雲海を見下ろし、雲と海が溶け合うような光景に心を奪われてきた。その広がりは現実でありながらどこか夢幻的で、「この雲の上に、もしも海の生き物のような存在が漂っていたら」という想像が自然に浮かんだ。本作は、そうした個人的な記憶と空想から生まれた世界である。

私はこれまで染織を学び、布の特性を活かした表現に取り組んできた。本制作では、染料の透明感やぼかしを基盤とし、その上に日本画の描写を重ねることで、新たな視覚表現を探っている。支持体には和紙ではなく綿布を選んだ。広い空の柔らかなグラデーションを表現するため、色が繊維に浸透する綿布を用いている。染料の自然なぼかしは、雲や空気の奥行きを生み出す層となっている。

制作はまず染料による下地づくりから始めた。刷毛で背景全体を引き染めし、時間帯ごとの色の変化を設計する。前景の雲の一部にはろうけつ染を取り入れ、防染による輪郭を加えることで、背景との対比を生み出している。その上から岩絵具や胡粉を重ね、モチーフに立体感と光の表情を与えた。浸み込む色と、重ねられる色が交わることで、画面に重層的な空間が立ち上がる。

昼の作品では暖色を基調にやわらかな光と生命感を描き、夜の作品では寒色を中心に静寂と神秘性を表現した。同じ世界でありながら、時間の違いによってまったく異なる空気が生まれる。そのあいだに広がるのは、現実と夢の境界がゆるやかに溶け合う風景である。

雲の上に漂うもう一つの世界。それは、空を見上げたときにふと心に浮かぶ、小さな空想のかたちである。

雲海に浮かぶ楽園‐夜‐ (size:P50)
雲海に浮かぶ楽園‐夜‐細部写真
雲海に浮かぶ楽園‐昼‐ (size:P50)
雲海に浮かぶ楽園‐昼‐細部写真
雲海に浮かぶ楽園‐silent‐ (size:P20)
雲海に浮かぶ楽園‐silent‐細部写真
(上)雲海に浮かぶ楽園‐land‐(size:S8)/(下)雲海に浮かぶ楽園‐stare‐(size:M10)
雲海に浮かぶ楽園‐land‐/雲海に浮かぶ楽園‐stare‐細部写真

關 正玟 Kuan Fumi

(大学院)日本画分野

CONTACT

台湾出身、京都市立芸術大学美術研究科(染織)修士課程修了、京都手描友禅協同組合青年会に所属。
現在はテキスタイルデザイナーとして勤務する傍ら、染色作家として活動し、手描友禅やろうけつ染などの伝統的染色技法を基盤に制作を行っている。

染料の透明感や滲み、布の質感を活かした表現を大切にしながら、日常の風景の中に潜む非日常的な感覚を描くことをテーマとしている。また、技法の可能性を探ることにも関心を持ち、染色表現の幅を広げる試みを続けている。

染色表現の研究の一環として日本画技法を取り入れ、本修了制作では綿布を支持体に岩絵具や胡粉を重ねることで、染色と絵画の融合を試みた。異なる素材や技法を横断しながら、染織表現の新たな可能性を探求している。

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