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AMU TIME 編むという行為を通して、自分に戻る時間を日常に差し出すキットの提案

空間演出デザインコース 髙谷 綸莉

キット3点

現代社会では、心身のケアが個人の努力に委ねられ、常に考え続けることや成果を出すことが求められている。環境の変化や役割の多さの中で、自分自身の状態に目を向ける余裕を失っている人も少なくない。
本作品《amu time》は、編み物という行為に着目し、日常の中で心身を静かに整えるためのキットを提案する。一定のリズムで手を動かす編み物は、自律神経に働きかけ、身体側から緊張をほどいていく。また、手元に自然と注意が向くことで思考の暴走が抑えられ、「考えすぎない状態」が生まれ
る。
成果や評価を求められないその時間は、安心して自分に戻るための静かな回復の時間となる。
キットには、編み物マニュアル、かぎ針、数種類の毛糸、編み物マーカー、説明カードなどが含まれており、初心者でも特別な準備なく始めることができる。完成度や上手さを目的とせず、編んでいる時間そのものに意識が向く構成とした。
本制作に先立ち、複数回のワークショップを実施した。参加者は編み物の経験に関わらず、次第に言葉数が減り、無言で手を動かす時間へと移行していった。終了後には「頭が静かになった」「時間の感覚が変わった」といった感想が多く聞かれ、編み物が心身の状態に作用している様子が確認された。
自宅や外出先、環境が大きく変化した場所においても、手を動かすという行為を通して、どこに居ても自分に還る時間を持つことを目指している。

<研究テーマ>
本作品は、編み物を「癒し」や「趣味」としてではなく、心身が自然に整ってしまう状態をつくる行為として再定義する試みである。
成果や評価、言語化を求められない時間を日常の中に差し出すことで、人が一時的に役割や緊張から離れ、どこに居ても自分に還れる余白をつくる。

<分析>
編み物は、一定のリズムで手を動かす反復的な行為であり、作業療法や心理学の分野において、注意の安定や不安の軽減、自己調整を促す効果があるとされている。
本キットでは、こうした編み物の特性に着目し、ただ編むという行為で終わらせるのではなく、その日の状態や思考に意識を向けながら手を動かす体験を設計している。

《amu time》は、誰もが自分の手で始められる、静かで持続可能なセルフケアのかたちを提示する。
今後は、この体験を特定の形式に留めるのではなく、さまざまな生活環境や個人のリズムに応じて展開していくことを目指している。
例えば、7日間という期間設定を基にしながらも、使用者の目的や状況に合わせて内容や難易度を調整できる構成や、記録や対話を取り入れた新たなデイカードの在り方を検討している。また、編み物に限らず、手を動かす行為全般に着目することで、より多様な表現や体験へと発展させる可能性もある。
amu time は、制作物を完成させることを最終的な目的とするのではなく、日常の中に「立ち止まり、感じ、考える時間」を生み出すための仕組みとして、継続的に更新されていくことを想定している。

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髙谷 綸莉

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