空間演出デザインコース 森田 千琴
作品サイズ(W300 D450 H200)素材(スチレンボード、ダンボール、紙、粘土、樹脂)、1点
タイトル:本と喫茶 NOMAD BOOKS 〜自分と向き合う静寂の場〜
人は誰しも、自分の居場所を求めて生きている。
けれど、社会の中でその場所を見つけることは、案外難しい。
仕事を始めて数年、私は「期待に応えなければ」と焦っていた。
誰かに認められることが大切で、組織の中で必要とされる自分であるために、必死だった。
けれど、気づけば自分が何をしたいのか、何のために働いているのか、わからなくなっていた。
心と体が限界を迎えたとき、ふと「私はどう生きたいのか?」と考え始めた。
そんなとき、旅先の書店で一冊の本と出会った。
そこには、「仕事を通して自分らしさを表現すること」「何をするかより、どう在るかが大切」という言葉が綴られていた。
その考え方に触れたとき、私は初めて、自分が本当に求めていたものに気づいた。
私は、ただ組織の役に立つのではなく、人の力になれることを望んでいた。
どの職業に就くかではなく、どんな形で人と関わり、どんなふうに支えられるのか。
その問いこそが、私の生き方を決める鍵だった。
振り返れば、いつも私を支えてくれたのは本だった。
迷ったとき、苦しかったとき、ページを開けばそこに言葉があり、考えを整理するきっかけをくれた。
そんな経験から、本を通じて誰かの心が少しでも軽くなる場所を作りたいと思った。
そうして生まれたのが、「本と喫茶 NOMAD BOOKS」というブックカフェだ。
日々の忙しさに流されるなかで、ふと立ち止まり、自分の心と向き合う時間。
書棚に並ぶ本の中から、自分に響く言葉を見つけるひととき。
扉を開けば、14畳の書店スペース、奥には10畳のおひとり様用読書室。
コーヒーを片手にページをめくりながら、静かに本の世界を旅する。
この場所が、忙しない日々の中でひととき自分と語り合える、あなたのための居場所となるように。
効率を最優先する社会では、過程を楽しむ余裕が失われ、深く考える時間も削られがちだ。多忙な日々や周囲の期待に応え続けるうちに、自分が本当に大切にしたい価値観を見失い、やがて思考すること自体を放棄してしまうこともある。膨大な情報に囲まれながら、自ら考える時間を持たず、ただ受け入れるだけの「思考停止」に陥る。その結果、心の豊かさが失われ、何のために生きているのかという根本的な問いすら忘れがちになってしまう。
忙しさに追われ、立ち止まることを忘れてしまう日々。そんな時こそ、一人で自分を見つめる時間が必要だ。ここは、静かに自分と語り合うための場所。本に囲まれた空間で、心を整え、自分自身と向き合うひとときを過ごすことができる。慌ただしい日常から少し距離を置き、思考を巡らせることで、新しい気づきや、自分らしい一歩が見えてくるかもしれない。本が寄り添うこの場所で、心を解きほぐす時間を紡いでほしい。
このブックカフェは、自分と向き合うための工夫を空間に織り込んでいる。 木の扉を開けた瞬間、日常から離れ、思索の旅が始まる。社会の仕組みを知る本棚で、自分の在り方を問い、自分を映す文学の棚で、内面を探る。そして、展示を通じて感性を刺激し、気づきを深める。最後に、暮らしや創作に繋がる本とともに、自分の思いを形にする準備をする。カフェの時間は、読書の余韻を味わいながら「これから」を考えるためのもの。ここで、心と対話するひとときを。
入口を開けると、視線は奥のギャラリーへと引き寄せられ、自然と足が奥へと進む。 この空間では、本棚の配置そのものが、一つの旅の流れをつくっている。
自分だけのひとときを楽しめる、落ち着いた店内。気ままに選ぶ時間も、読書の楽しみのひとつ。言葉を味わいながら、ゆっくりと心を整える時間。
作品を通して、自分自身と向き合う時間。どの本を選ぶかは、今の自分が知っている。暗闇の中に浮かぶ、静かな本の灯り。
森田 千琴
空間演出デザインコース
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