(大学院)文化遺産分野 児玉 大成
彩色土器
縄文時代における彩色土器の研究
—北海道・北東北の縄文時代中期から後期前半の焼成後彩色土器を中心に—
1. 制作物・研究成果物の客観的記述
本研究は、北海道・北東北を対象に、縄文中期から後期前半にかけて出土した彩色土器を考古学的に分析し、その象徴性や用途を明らかにすることを目指した。序論では、従来
の研究史を整理し、彩色土器研究における現状と課題を明確化した。また、彩色土器を焼成後彩色土器(Ⅰ類)と焼成前彩色土器(Ⅱ類)に分類し、前者を本研究の主題として設定
した上で、研究方法や分析手法を具体的に示した。
焼成後彩色土器(Ⅰ類)の出土事例及び個体数を把握した結果、縄文中期から徐々に増加し、後期前葉Ⅰ期でピークを迎えるものの、その後は減少傾向を示していることが確認
された。また、分布的には、岩手県や秋田県から青森県、北海道南部へと広がりを見せたが、後期前葉Ⅱ期以降は減少傾向にあることが明らかとなった。さらに、土器における彩
色位置にも時期的な変化が確認された。
彩色材料については、これまでの成分分析の結果を集成し、主にベンガラが使用されていること、また後期後半以降には水銀朱の利用が拡大していることを確認した。さらに、
赤色顔料の保存状態は出土環境に大きく左右されることが判明し、赤色漆の被熱実験を通じて、漆が劣化すると粉末状の顔料が残りやすいという状況も実証的に確認することがで
きた。
焼成後彩色土器(Ⅰ類)の象徴性や用途に関しては、日常的な使用と儀礼や祭祀といった非日常的な用途の両面が存在していたが、特に縄文後期前半においては墓制に関連した
儀礼的役割が顕著であったことが確認された。
2. 制作研究の背景・意図
彩色土器の研究は、従来の研究が理化学的分析を中心に展開されてきた一方で、考古学的視点が十分に取り入れられていない現状がある。この課題は、北海道・北東北に限らず
全国的なものと考えられ、理化学的分析が赤色顔料の成分や物理的特性を明らかにする上で有効である反面、彩色土器が当時の社会や精神文化において果たした役割や意義を理解
するには限界があった。
こうした背景を踏まえ、本研究では、考古学的手法を主軸に据えつつ、理化学的分析を補完的に取り入れることで、彩色土器の包括的な理解を目指した。具体的には、彩色土器の
時期ごとの変化や分布、彩色方法、赤色顔料の保存状態、さらに遺構ごとの出土状況をもとに象徴性や用途を検討し、製作技術のみならず、その社会的・精神的意義を解明する意
図のもとで本研究を進めた。
3. 制作研究の位置づけ
従来の縄文土器研究では、型式学的分類や編年研究に加え、土器表面の黒斑や付着物をもとに焼成方法や使用方法を推定する研究、出土状況の分析による用途の検討、さらには
放射性炭素年代測定や脂肪酸分析、顔料成分分析などの理化学的分析が活発に行われてきた。しかし、これらの研究が彩色土器の象徴性や用途を包括的に捉える試みに発展するこ
とはほとんどなかった。
そこで、本研究では、北海道から北東北にかけて出土した彩色土器を集成し、考古学的手法を主軸に据えつつ、顔料の成分分析や塗膜構造分析といった理化学的分析を補完的に
取り入れながら、時期ごとの変化や分布、彩色方法、赤色顔料の保存状態、出土状況等を詳細に検討し、彩色土器の製作技術のみならず、当時の社会における象徴性や用途を明ら
かにすることを試みた。
このような研究は、従来の縄文土器研究に新たな視点を提供し、彩色土器が果たしていた象徴的・機能的な役割を多面的に理解するための重要な位置づけを持つ研究であるとい
える。
4. 自己評価
本研究は、北海道・北東北における縄文中期から後期前半の彩色土器を対象に、多角的な検討を行い、理化学的分析が主流であった従来の彩色土器研究に対し、考古学的手法を
主軸に据えたアプローチを試みた点に独自性があると評価できる。
特に、彩色土器の象徴性や用途について、従来は儀礼的用途に偏った一面的な解釈が多かった中で、本研究では、彩色土器が非日常的な儀礼や祭祀のみならず、日常生活にも使
用されていた可能性を具体的なデータを基に指摘したことは意義深い。
一方で、焼成前彩色土器( Ⅱ類)や赤色顔料及び赤色漆の収納・製造に関わる土器(Ⅲ・Ⅳ類)については、紙幅の制約から詳細な議論を行うには至らず、今後の課題とし
て別稿に委ねることとした。
総じて、本研究は、彩色土器の役割を象徴性にとどまらず、実用的な意義や美的価値を兼ね備えたものとして、具体的な根拠に基づき提示するとともに、生活文化や精神文化の
両面に迫ることで、彩色土器研究のみならず、縄文文化全体の研究に新たな可能性を示し、その発展に寄与する重要な研究であったと評価できる。
児玉 大成
(大学院)文化遺産分野
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