“わたし”の現実
イラストレーションコース 斉藤花歩 (やまぶき)
デジタルイラストレーション/2025年制作/6497×5611px
本作品は、社会の中でうまく声を上げることができず、心の内を抱えたまま生きている人々の存在を可視化することを目的としたイラストレーション作品である。
個人的な経験を出発点としながらも、特定の誰かの物語ではなく、同じような感情を抱いたことのある他者と共有できる「普遍的な心情」を描くことを目指した。
現代社会は、自己表現の場が増え、自由で華やかに見える一方で、助けを求めることができない人々が静かに取り残されやすい側面も持っている。苦しい状況の中で、自分を守るために感情を押し込み続けた結果、「助けて」と言う方法そのものを忘れてしまう人もいる。本作品では、そうした言葉にならない痛みや孤独を「静かな痛み」として描いている。
画面では、人物を小さく配置し、その周囲を何重にも重なった花で囲んだ。花は美しさや華やかさの象徴であると同時に、社会や他者、あるいは世界そのものの圧力を表している。象徴主義の画家オディロン・ルドンに影響を受け、花に「目」を持たせることで、世界から見つめられているような感覚を表現した。
人物が手に握る縄は、死を想起させるモチーフでありながら、完全に手放すこともできない存在として描かれている。「死にたいけれど、死にたくない」という矛盾した感情を抱えたまま生きる人間の状態を象徴している。
この世界は、必ずしも誰にとっても優しい場所ではない。しかし同時に、誰もが余裕を失いながら生きている現実もある。本作品は、誰かを責めるためではなく、気づかれにくい痛みが確かに存在していることを、そっと示すための表現である。
鑑賞者が、自分自身や身近な誰かの心に思いを巡らせるきっかけとなることを願っている。
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