左上順《糸電話を掴む手》《資本主義の終焉》《断絶の糸電話と蟻》《癒しの孤域》《存在のキューブ》《瞳の中の紙コップ》《巣を欲する天女》《紙垂の湯に浸かる仮の自分》《虚無の砂漠、蟻を孕む砂》《声なき通信》
(大学院)洋画分野 羽生 博江
キャンバスや使い捨てのダンボール箱を支持体とし、アブソルバン地・ジェッソ地を施し油彩、水彩、アキーラを併用。最大130.3×80.3cmの作品を含む多素材混合の作品群。
本作は「私のブラックボックス」を主題とし、断片化された記憶や感情を可視化する絵画実践である。キャンバス・油彩のみならず、ダンボール箱や菓子箱、クラフト紙といった廃材を支持体に用いることで、消費と廃棄を繰り返す社会構造と、他者との関係で抑圧されてきた自己の内面を重ね合わせている。背景には、自己否定と自己防衛を反復する中で自分を見失った経験があり、その空虚や暗闇を「ブラックボックス」と捉え直すことで、内面を源泉として再び意味を与える試みとなっている。異なるモチーフを画面上に共存させ、視覚的な関係の中で自己へ接近していく過程そのものが表現であり、カーテンは外界と内面を隔てつつ接続する境界の象徴として機能する。
箱型作品では観音開き構造を用い、鑑賞者が開き覗き込む行為を心の深部へ向かう精神的動作に重ねる。軽く脆いダンボールは、内面に沈殿する重い記憶との対比を生み、影や間は言語化されない気配を宿す場となる。さらに古いタロットカードや繧繝彩色に見られる象徴性を取り入れ、外部と内部の意味の差異から解釈の余白を生み出した。リオタールのいう大きな物語の喪失後、個別の物語が氾濫する現代において、本作は内面と社会の境界を媒介する装置として機能し、自己と他者の接続の契機を提示する絵画の可能性を探究している。
羽生 博江
(大学院)洋画分野
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