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Human History Virtual Museum PLANT–HUMAN HYBRID

人と植物が共進化した未来

(大学院)グラフィックアート分野 鹿庭江里子

研究科長賞

プロンプト・アート・デジタル編集、および透過布出力。

※本作はAIの使用が効果的だと判断されたため、AIを用いた作品としての制作及び展示が許可されています。

本作品群は、〈植物的異化〉という独自概念を軸に、人間と植物が融合・変容した身体像を「仮想人類史博物館」の展示物として構成したデジタルアート・シリーズである。

人新世における生態系の不可逆的な破壊を背景に、近代文明による自然環境破壊に加担してきた自己身体を棄却したいという無意識的な贖罪の願望——それが本作の思索と制作の出発点にある。環境汚染や遺伝子操作が極限まで進行した世界、植物胞子への曝露によって女性卵子と植物精細胞の自律的な受精が起きたという仮説のもと、〈植物的異化〉を遂げた人間身体の受精から生態系への還元までを、「未来考古学」という仮想概念とともに一連の生命史として立体的に構成した。

展示は、大樹の根に変容した脚部を持つ「グレートマザー」の懐妊像《Primoris》から始まる。続いて《異化された受精》《細胞分裂》《胚胎》《胎児》と発生の過程を示す標本群が提示され、《成熟》や《老化》部門では、皮膚や筋肉の樹皮化と根茎化が進行した顔貌に小型酸素マスクやプラスティック・バッグ、タイヤチューブの断片など、人新世の負の遺産が埋没した塑像が置かれる。《捕食植物相としての心臓》では、臓器そのものが生態系における単独生命体へと変質し、《花弁化する身体》では、花弁との融合によって、人体が植物の成長原理と完全に同化した〈植物的異化〉のもうひとつの極相を大理石彫刻として構成した。さらに《還元する身体》は、内臓器官が捕食系植物と根茎に侵食され、微生物などの他種生命に分解される素材として生態系に再提示される。最後に展示は屋外へと開かれ、透過布に出力された視触覚的身体が、森の光と風の中で揺らぐ《精霊の森》へと鑑賞者を誘う。

制作手法はAI画像生成と精緻なデジタル編集の組み合わせによるプロンプトアートを主軸とし、作品における視覚構造には、「視触覚性」と本研究の独自概念である「博物学的まなざし」を採用した。透過布を、胎膜や細胞膜などの半透膜的な物質性を媒介する視覚と触覚の統合手段とし、それが鑑賞者と植物との間主観的共在を促す装置となることを企図した。

本作は、人類が生態系破壊の当事者でありながら、汚染された生態系へと再び還元されざるをえない存在であるという矛盾を、多彩な標本形式によって批判的に問い直す試みである。

《Promoris》 ラテン語で原初に現れる者。土中の栄養や光合成によって胎内胎児を育成した植物的異化人類のグレートマザー。原初的太母の立体塑像と物語を伝える細密銅版画として構成した。
《異化された受精》3Dホログラム標本。細胞分裂の開始と同時に植物の胚胎を含み、受精した胚胎にも根の構造が見られる。新たな生命の始まりはすでに異種同士が融合していた。
《胚胎ー胎児移行期》インタラクティヴに生態情報の閲覧が可能な「デジタル生態学標本」として構成した。
《胎児》植物的に異化した母胎内から取り出された胎児の透過標本。「博物学的まなざし」を最も体現する作品である。
《成熟》小型酸素マスクの残骸が顔面に埋没しているのは、植物との共進化を果たしてなお環境汚染に耐えられなかったのだろうかという想像を喚起させる。。
《老化》プラスティックバッグやタイヤチューブの残骸が身体化されたまま再び生態系に回収される前段階の姿。
《捕食植物相としての心臓》臓内では昆虫の育成にも関与していた。右図像のグラフィックでは、中世解剖図譜のスタイルを参照した。
《花弁化する身体》花弁の生成と人間身体が融合する運動性の高い位相を大理石彫刻として構成した。
《還元する身体》最終的な〈植物的異化〉身体の液湿標本。鳥や昆虫、微生物など他種生命に分解される素材として生態系に再提示される。生命の崩壊と生成が共存する象徴的な姿である。
《精霊の森へ》展示は標本が並ぶ室内から野外へと続く。身体像を半透過性の布に出力し、森林に展示することで光や風との共感覚性や視触覚性を高め、人と植物の間主観的共在の感覚が励起されるよう企図した。

鹿庭江里子

(大学院)グラフィックアート分野

CONTACT

テレビ番組制作とソーシャル・ベンチャー領域のプロデュース業務を経て、写真表現活動を行いながら、2014年に "Sensegraphia"を設立。人間と自然の本質的な繋がりをファインアートによって再構築する実践を続けてきました。

修士論文「植物的異化の視覚表象論」では、人新世における生態系の危機を背景に、人間身体と植物が融合・変容する身体像を考察。「植物的異化」という独自概念を軸に、「博物学的まなざしと」「視触覚性」の理論的枠組みを構築し、プロンプトアートと透過布出力による作品群を展開しました。

皮膚・内臓・植物組織が交錯する仮想標本の身体像は、人類が生態系の一部として深く絡み合う存在であることを問い直します。光と影の間に無限のグラデーションがあるように、生と死、有機と無機、可視と不可視の境界域にこそ、私の制作の核心があります。

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