郷
(大学院)グラフィックアート分野 岡本みなみ (オカモトミナミ)
領域奨励賞
主に木製パネルに油彩、ミクストメディア
【主題と目的】
本論文は、筆者が自身の「記憶」を辿り、抑圧してきた負の記憶と精神の核心(コア)を客観的に視覚化し、自己受容とアイデンティティの統合を図るプロセスを論証したものである。かつての筆者は、IBSガス型(過敏性腸症候群)や社交不安障害に伴う苦痛から自己を保護するため、幼少期の肯定的な原風景「郷」のみを抽出していた。しかし、これは脆弱性を隠蔽する「回避的防衛」であり、真の自己理解には、避けてきた中学・高校時代の暗い記憶を再発掘し、現在の感性で咀嚼し直す自己探求が不可欠であった。
【自己対峙と精神の乖離】
中学進学後、環境への不適応からIBSガス型を発症した筆者は、教室で自らが発する匂いと他者の視線に対する恐怖に苛まれた。その過酷な現実を生き抜くため、無意識に肉体から精神を切り離し、内奥の「核」へ逃げ込む解離的な防衛機制を構築した。筆者にとって肉体とは、真の自己ではなく精神を収容する仮の「器」に過ぎない。この強烈な身体的疎外感と、奥底に沈殿する不定形な精神の核への自覚こそが、自己への探求心と表現の起点となっている。
【制作を通じた可視化】
最終制作では、他者の視線から逃れる唯一の安息地であった「自室」をインスタレーションとして再現し、内面世界を物質化した。絵画制作においては、当時の苦痛を現在の感性で咀嚼し、抽象的な形態として定着させた。特に、無数のメモを画面に貼る「メモコラージュ」技法は、自己の保持と現実逃避がせめぎ合う精神構造の視覚化である。作品群には、肉体から逸脱する視線を描いた『郷』や、幸福な記憶の象徴である学習ノートに現在の苦悩を記述し直した『日記』、デジタルへの没入と身体の停滞を表した『core(核)』が含まれる。
【結論:自己の統合】
本制作を通じた負の記憶の再解釈と内面の「物質化」は、肉体と精神の乖離を解消する自己受容の技法として機能した。絶対的な安心感を持つ原風景と、身体的疎外を伴う負の記憶がひとつの空間で再構成されたことで、断片化していた記憶は接続され、アイデンティティの統合が達成された。筆者にとって表現活動とは、主観的な記録に留まらず、分裂した自己を論理的に統合し、精神的均衡を維持するための認知的な必然性を持つ営みであると結ぶ。
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