現代の居住空間 / ライフスタイルと書の融合
茶の湯の精神性と【光・空間・言葉】のモジュールによる現代的アップデート
書画コース 秋元 美香
サイズ:高さ 90cm、シェード長 42cm、シェード幅 30cm
素材:PET繊維(シェード)、陶器(土台)
釈文:以呂波仁保部止(いろはにほへと)、篆書体
現代の住宅建築、特に都市部の集合住宅においては、日本家屋が持っていた「床の間」という求心性(フォーカルポイント)が消失し、均一な照明と水平・垂直の直線で構成される洋風の居住空間が主流となっている。これに伴い、かつて床の間において「場の精神的支柱」であった書(掛け軸)の役割もまた、その居場所を失っている。
茶室の中心をなす床の間に掛けられる書軸は、亭主と客とを結びつける最も精神的な象徴であり、一座建立(主客の心が通い合い、その場限りの一体感が生まれる状態)の起点となる装置であった。果たして、茶人たちが茶室という限定された空間で行っていたこの「精神の調律」を、現代の開かれた居住空間において再現することは可能だろうか。現代のライフスタイルの中においても、その場に集う人々が互いに心を交わし、一度きりの調和を生み出すことはできないだろうか。
本作品群は、茶の湯の精神性を今日的な「生活の美学」の視点から捉え直すことで、書を単なる筆写された文字や壁面装飾としてではなく、「場」と「人」 とを繋ぎ、空間の気配や人々の呼吸を整えて「一座建立」を起動する装置として再定義し、現代の居住空間/ライフスタイルをアップデートする試みである。各作品は、個別の装飾品ではなく、【光・空間・言葉】のモジュールとして、互いに補完し合うシステムであり、照明が意識を整え、屏風が場を繋ぎ、壁掛けが対話を導く。この「光・空間・言葉」の三位一体は、茶室の伝統的な形式に頼ることなく、現代の日常生活の中に「一座建立」の精神を立ち上げる。
「光のモジュール No.1(テーブルライト)」ー 夜咄(夕暮れから夜にかけて行われる侘び茶の茶事)の茶室の灯りや書軸の演出によって生み出される幻想的で親密な雰囲気と体験を、書と照明器具の融合により現代の居住空間やライフスタイルに合う形で再現するものである。夜咄では、揺らぐ蝋燭の光の中で書軸の文字が浮かび上がり、一座は幻想的で親密な雰囲気を感得し、精神密度を高める。この仕掛けを現代の生活に持ち込むため、シェードに書を施し、文字を読むという行為を光を介して体験する形で再現した。
秋元 美香
書画コース
東京在住。「我楽花茶」を生活の motto に、いけばな、お茶、書画を学び、楽しむ日々。老老介護をしながら、お茶会、お食べ会、手作り会(クラフト)を少々。
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