岩佐又兵衛筆《金屋屏風》の源氏絵についての一考察
芸術学コース 鈴木貴子
卒業研究のテーマは岩佐又兵衛の表現についてです。岩佐又兵衛は江戸初期に活躍した絵師です。彼の表現は同時代の画派に属した絵師と比較して特異とされますが、この特異とされる表現を再検討し、その表現の誕生の背景を制作当時の社会・文化状況に求めました。そして、その検討を通じて、研究の対象である《金屋屏風》(《金谷屏風》と表記されることもあるが、屏風が伝来した家が「金屋家」であるため本稿では金屋とした)の中の『源氏物語』を主題とした《官女観菊図》、《野々宮図》、《花の宴図》を時代の中に位置付けることを目指しました。
研究の手法としては、抽出と比較を用いました。対象作品から、口元の描き方や身振りといった描写を抽出し、その描写がどのような表現につながるかを検討した上で、その表現を他の絵師の作品と比較しました。比較作品は、土佐光吉の《源氏物語絵色紙帖》です。光吉は又兵衛と活躍時期が近く、中世までの源氏絵(『源氏物語』を主題とした絵画のこと)を体系化したとされる絵師です。伝統を継ぐ光吉の作品と比較することで、その表現の差から又兵衛の表現志向を明らかにしました。そして、その表現の誕生の背景を当時の社会・文化状況から考えました。
結論として、以上の抽出、比較から又兵衛の表現は現実感があり、感情表現を重視していることを明らかにしました。しかし、この表現は光吉の作品のような伝統的な源氏絵の価値観とは距離を置いています。
こうした又兵衛の表現の誕生の理由を制作当時の社会・文化状況から考えてみると、《花の宴図》には、制作当時の社会問題であった公家のかぶき化(派手な身なりで奔放に振る舞うこと)からの影響が考えられ、全図を通して見られる繊細な感情表現の理解には古典教養が必要となることから、制作当時に拡大した古典教養の享受層からの影響も考えられます。
かぶき者が起こした事件は社会に大きな衝撃を与えていましたし、又兵衛の残した紀行文は、彼の高い教養をうかがわせ、新興の教養層からの伝統とは異なる源氏絵の要求があったなら、それに応えることができる教養と技術を持っていたと考えられます。
資料的な限界はあるものの、以上の検討から、又兵衛の表現は彼の才能に、当時の社会・文化状況が影響し成立したと考えられ、社会、文化状況を反映した対象作品を近世初期において、先進的な表現を志向する源氏絵として位置付けました。
鈴木貴子
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