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空海の書法研究 臨書から倣書への展開

空海の飛白体 倣書 「寧日」

書画コース 磯貝由里子 (春葉)

総寸法|W81×H140
紙|紅星牌 棉料単宣
墨|開明 花仙
筆|名村製B絵刷毛15号

寧日―空海飛白体への接近と再構築―

 本作は、心安らかで平穏無事な日々を意味する「寧日」を空海の「真言七祖像」「飛白十如是」の倣書を経て、独自の飛白体によって制作したものである。

飛白体は、後漢の蔡邕が創始したとされ、空海の入唐当時は神聖視された書体であった。空海はこれを単なる装飾ではなく、密教思想の可視化、すなわち身・口・意を仏と一致させる「三密行」の実践として捉えていた。その造形は1200年前の作とは思えぬほどモダンな造形美を備えている。しかし現代では、この本質が等閑にされ、一部の余技や観光地の「花文字」のような装飾的・商業的表現に終始している感は否めない。本作は、飛白をパフォーマンスや装飾から切り離し、造形の本質を問い直す試みでもある

 制作にあたっては、空海の筆録が明確にすべて特定されているわけではないため、薄い板や藁など様々な道具を検証し、最終的に日本画の絵刷毛に辿り着いた。用筆・筆圧・墨量・運筆、そのすべてに呼吸を巡らせ、飛白を単一の技法でなく、空間に生じる「多様な現象」として捉えている。すべての線を擦らせるのではなく、白を積極的に構成し、書かれなかった余白をも「形」として捉えることで、平面における奥行きを追求した。

 「真言七祖像賛」の独創性と、今は焼失したとされる「飛白十如是」の残影、空海の眼差しを追体験した倣書のプロセスは、飛白体を理解する上で不可欠な視点を与えてくれた。古の伝統と対話し、現代の造形として再定義された「寧日」の文字が静謐な祈りとなって空間に響くことを願う。


空海筆「聾瞽指帰」臨書 空海の真跡といわれている中で最も古い入唐前の24歳の時の書であり、戯曲構成で書かれた日本で初めての小説ともいわれ、王羲之の書法を踏襲した行書であることを意識して臨書した。
風信帖臨書 第一通(風信帖)は上品で整った書風、第二通(忽披帖)は力強く覇気に満ちた書風、第三通(忽恵帖)流麗な草書体、王羲之や顔真卿、晋唐の影響を受けるとともに空海らしい個性も感じるよう臨書した
空海筆 金剛般若経開題残巻(三十八行)(奈良国立博物館蔵 27.9×131.8㎝)臨書 一字ずつ草書で書く独草体を基本としており、王羲之書法を継承した孫過庭「書譜」を 意識した。
臨書三巻
「駑馬十駕」 荀子の『荀子・勧学篇』の「騏驥一躍 不能十歩 駑馬十駕 功在不舎」の部分と空海「金剛般若経解題残巻」の独草体に倣い臨書。絶えず歩み続けることの意義を静かに見つめなおした一作。

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磯貝由里子 春葉

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