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あの日言えなかったありがとう

遅れても、想いは届く。

映像コース 田畑 愛子

本作品は、親と子というとても近い関係の中で、言葉にしないまま残ってしまった感謝の気持ちを見つめ直すドキュメンタリーである。
身近な相手ほど、「ありがとう」という言葉をあらためて口にする機会は少なくなる。言わなくても伝わっているだろう、今さら言うのは照れくさい、そうした思いの積み重ねによって、感謝は言葉にならないまま時間の中に置き去りにされていく。その言えなかった時間に焦点を当てている。

この作品では、返事の来ないLINEを見る手元から始まり言葉で伝えられなかった思いは、手紙を書こうとする行為や、日用品を段ボールに詰める行動へと移り変わっていく。しかし、そこでも感情が直接語られることはない。顔やインタビューを映さず、手の動きや生活音といった日常の断片のみを通して、関係性や心の揺れを描いている。
紙の音、お湯を注ぐ音など、生活の中にある音は、言葉の代わりとして静かに時間を進めていく。音楽は最小限に抑え、日常の中にある行為や音そのものが、感情の存在を示す要素として機能している。

ラストでは、感謝が劇的に言葉として解決されるわけではない。ただ、同じ時間と温度を共有する日常の中に、言葉にならなかった思いが、そっと溶け込んでいく様子が描かれる。本作は、観る人それぞれが自分自身の誰かを思い出すための、静かな余白を残すことを目指している。

田畑 愛子

映像コース

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